第817回
夏の日のふぐちり(その2)
都立大学駅にほど近い「鳥はる」で
続々と登場する佳味を堪能している。
ハツの串焼きを前にして
芋焼酎のロックがほしくなった。
よそではなかなかお目にかかれない、
鹿児島は小正酒造の手になる天地水楽をロックで。
黄金千貫を原料とする有機100%の傑物だという。
念入りにステアしてクイッとやった。
実にうまい。
浅めに火を通したハツもまた、劣らずにうまい。
望めばほかの部位の焼き鳥も出してくれるのだが
とにかく食材の取り揃えが半端ではないので
後ろ髪を引かれつつも先に進むことにする。
ここで本日の主役、とらふぐの冷やしちりだ。
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使われる食材は冬場と一緒
photo by J.C.Okazawa
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J.C.は元来、ふぐちりよりもたらちりを好む。
しかし、たらの冷やしちりを食べたいとは思わない。
何度かいただいた「鳥はる」の冷やしふぐちり。
長ねぎをポン酢にくぐらせて食べたあと、
プルプルのゼラチン質の下を探ったら
ふぐの肉塊がゴロゴロと出てきた。
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こんなぜいたくしてバチが当たらんかしら
photo by J.C.Okazawa
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箸先で一つつまみ、舌なめずりしながら口元に運ぶ。
かねてより知ったる滋味に舌鼓をポンと打った。
芋焼酎の天地水楽は早くも三杯目。
目の前に新たな美味が現れるたびに
指先がグラスに伸びるのだから、さもありなん。
夏の夜のふぐちりで贅をつくしきったと思いきや、
またまたリッチな一皿が運ばれた。
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はて、これは一体何でしょう?
photo by J.C.Okazawa
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驚くなかれ、スライスされた蒸しあわびが
黄金の衣をまとっているのだ。
光り輝く粒々は何とからすみ。
姿かたちが似ているので、この名が付いた唐墨である。
一瞬、一緒に食べるのはもったいないから
別々に食べたいなとも思ったが
こんな機会は二度と訪れぬかもしれぬ、
すぐに思い返して、すかさずパクリ。
そして間髪おかずにニッコリだ。
ここでご主人、立派な真子がれいをさばき始めた。
われわれの胃袋がまだまだイケると見切って
薄造りにおろしてくれたのである。
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エンガワ付きの真子がれい
photo by J.C.Okazawa
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コリッとした食感が歯を刺激したあと、
デリケートな旨みが舌の上を占領する。
もうこれでじゅうぶんなのに、まだあった。
締めは店主自らが打った手打ちうどん。
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どうです? この美しさ
photo by J.C.Okazawa
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皿から涼気が立ち上ってくるではないか!
真夏の夜の夢のような晩餐を締めくくった逸品は
あくまでもうどんでありながら
なぜかソバージュが掛かっていたのでした。
【本日の店舗紹介】
「鳥はる」
東京都目黒区中根2-13-5
03-3723-6744
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