第824回
歩くからこそ 未知との遭遇
藤棚で名高い亀戸天神の裏手に
「中の茶屋」を発見したときは、思わず指パッチン。
こんなところに、こんな店があったとは!
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近年まれに見る発見となった商業物件
photo by J.C.Okazawa
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別に目的があるでもないそぞろ歩き、
店の前まで導いてくれた「散歩の神様」に心から感謝だ。
その日は食事どきを外したせいか暖簾が出ていなかった。
ひっそりと静まり返っていたので単なる休憩なのか、
あるいは休業日なのか、見当がつかない。
両手を顔の両側に当てて光をさえぎりながら
ガラス越しに中をのぞいても判然としない。
ウインドウの品書きとサンプルを見る限り、
営業だけは続けているようだった。
近いうちの訪問を心に決めたものの、
ふらりと訪れるには少々やっかいなロケーション。
JR総武線の亀戸と錦糸町、都営と東京メトロの押上、
マイナー路線ながらも東武亀戸線の小村井と、
どの駅からも歩いても15分は掛かるだろう。
そんなこんなで数ヶ月経ったある日。
ことのついでに出掛けてみたが
再び暖簾が出ておらずガックリ。
そこからまた半年後、三度目の正直で
やっと入店がかなった。
やれやれ。
店内も昭和30年代の町のそば屋さんそのものだ。
それも至極個性的な――。
何たって店舗の中に池がある。
先客は一人きり。
店のオバさんとのやり取りから常連さんと推察された。
かなりの年配者とお見受けしたのに
ラーメンとカレーライスの両方を食べている。
おっと、これは余計なお世話でした。
今年初めてとなる冷やし中華を注文。
いや、品書きには五目冷やし中華とあって
五目でない冷やし中華は見当たらない。
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個性が端々にうかがえる五目冷やし
photo by J.C.Okazawa
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一見はちょいとばかり賑やかなだけで
ごく一般的な冷やしに見えるが
よくよくご覧いただきたい。
ピンクのチャーシューがローストビーフのよう。
切り方もケチケチしていない。
見た目を裏切らず、食味もよかった。
玉子は錦糸玉子ではなく、玉子焼きの短冊切り。
普段、日の目を見ることのないナルトが
彩りを添えているのが健気だ。
全体のバランスが実によい。
心をこめて丹念に作っているのが
食べ手に真っ直ぐ伝わってくる。
何事につけても乱雑で脂っこい、
町の中華の繁盛店とは一味も二味も違うのが
よく判っていただけると思う。
もり・かけは300円。ラーメンが380円。
くだんの五目冷やしは600円の、
心に響く優良店が、墨東の片隅で貴方を待っている。
【本日の店舗紹介】
「中の茶屋」
東京都江東区亀戸3‐14‐5
03-3682-5143
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