「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第826回
いいオンナを食っちゃいました!(その1)

品行方正を自認しているJ.C.だが
たとえ聖人とて、ときとして盲(めし)いることもある。
どこのどいつが聖人だい? ってか?
ごもっとも。冗談ですよ、冗談。
最近は冗談の判る人がホントに少なくなっちゃった。
でもネ、先日、本当に食っちゃったんですよ、
それも飛びっ切りのいいオンナを!

ことの顛末をつまびらかにすると
少々長くなるが、まあお聞きくだされ。
その夜は初めての試みで
溜池のフランス料理店に出掛けて行った。
何が初めての試みかというと、
北イタリアはピエモンテ産の優良な赤ワインが手に入り、
イタリア料理ならぬフランス料理との相性を
自分の舌で確かめてみたくなったのだ。

行きつけの仏料理店「ル・シズィエム・サンス」では
フランスワインとともにイタリアワインを
フランス料理に合わせたことが何度かあった。
でも、街場のレストランにワインを持ち込んだことはない。
予約の際、持込み料をうかがうと、金3500円也。
下町や谷根千、あるいは神楽坂あたりと比べればお高いが、
理にかなった値付けといえないこともない。

ワインの銘柄は、スオイ・バローロ‘04年。
訪問店は「ビストロ ボンファム」。
梅雨が明ける前の一夜であった。
入口に近い窓際はテラス風、
奥のテーブルはしっとりと落ち着いた雰囲気である。
壁にルイ・イカール(英語読みはルイス・アイカート)の
版画が掛かり、薄明かりの中で浮かび上がっている。
「タイス」と名付けられた一作は
アナトール・フランスの小説「舞姫タイス」を
モチーフとして描かれている。
イカールのこの作品は、
J.C.も所持していて偶然にいささか驚いた。
古代エジプトを舞台に舞姫でありながら
なおかつ高級娼婦のタイスを主人公に据えた小説で
彼女は間違いなく「いいオンナ」。
マスネのオペラ「タイス」も広く世に知られている。

サントリーのプレミアムモルツを飲みながら
(シャンパーニュや白ワインでないところがビストロ的)
オードヴルの「特製リッチなサラダ」でスタート。

オマール海老とフォワグラのコラボ
photo by J.C.Okazawa

センスのないベタな料理名ながら
使われている食材は看板通りにリッチだ。
オマールの火の通しが浅からず深からず、
ここしかないというポイントを見切っていて見事。

年配の接客係のサービスがとても快適だ。
欧州の旅に出ると、パリでもローマでもウィーンでも
その街の、その店の、その雰囲気に
ピタリとハマッた給仕係に出会えるけれど、
東京ではきわめてまれなケースといえよう。

以前をいえば、東京のホテルのバンケットには
そんなベテランが数多くいたが、今はどんな状況だろう。
最近はホテルでの結婚披露宴がトンと少なくなり、
訪れる機会が減ってしまったのでよく判らない。

そのときである。
くだんの「いいオンナ」が視界に飛び込んできたのは――。

            =つづく=

 
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2009年9月2日(水)

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