「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第833回
鴨のもも肉・牛のほほ肉

大衆酒場の渡り鳥にとって
大井町「大山酒場」の閉業はツラかった。
人間、五十路を過ぎると残された人生のよき道連れは
何はともあれ、まずはノスタルジー。
懐旧の灯がまた一つ消えてしまった。

「大山酒場」があった一帯は
敗戦直後の空気を色濃く残すところで
今でも夜毎、男たちが何かから逃れるようにやって来る。
愚痴や未練の捨てどころといった様相の店も少なくない。

何だか話題が暗くなったので
同じ大井町でも、ちょっと南に移動してみよう。
関係ないけれど、イタリアだって風光・人柄ともに
北よりも南のほうがずっと明るいし・・・。

すると、ここに一軒のフランス料理屋を見出すことができる。
ご夫婦だろうか、若い二人が切盛りする店の名は
「ブラッスリー・ポワソン・ルージュ」。
「赤いサカナのブラッスリー」という意味である。

フードアナリストのY里嬢と夜に訪れた。
デジカメを持参したものの、
照明のあまりの暗さに撮影を断念する。
おかげでゆっくりワインと料理に
集中できるというわけで、これはこれでよし。

駆けつけのビールはカールスバーグの生。
デンマークのこのメーカーが
初めて近代的なラガービールを開発したそうだ。
すっきりタイプで喉越しがさわやか。
食前にはこういうのがいい。
赤ワインはパランのブルゴーニュ・ルージュ‘05年を。

前菜はサラダ・ニソワーズとエスカルゴ・ブールギニョン。
ニース風サラダとブルゴーニュ風でんでん虫である。
これは大粒のでんチャンに軍配。
ニンニク・パセリ・バターが奏でる三重奏の勝利だ。
エスカルゴはこの料理に限る。
最近は創作居酒屋でもツブ貝やサザエを使った
ブールギニョンをたびたび見かけるが
エスカルゴには及ばない気がする。
よい意味での泥臭さが、貝類には欠如しているからだろう。

主菜はワインとの相性を考慮した。
当たり前のことながら、当夜はいっそう気を配ったのだ。
まずはコンフィ・ドゥ・カナール。
鴨もも肉のコンフィである。
日本において鶏肉は胸よりもももが重宝されるが
鴨肉の場合はその逆で圧倒的にももより胸。
胸肉のローストが鴨の看板料理だからである。
和風の鴨鍋・鴨焼きもまたしかりだ。
しかしながらコンフィとなると、
もも肉が俄然、光彩を放ってくる。
余分な水分が取り除かれてうま味だけが結晶する感じ。

しっかりと滋味を蓄えた和牛ほほ肉の赤ワイン煮も
負けず劣らずの仕上がりで思わず笑みがこぼれる。
赤ワインともども、飲み食いを堪能した二人であった。

食後、結局は北側のディープな一帯に向かい、
横丁に足を踏み入れて、さんざん吟味した挙句に
「A」という飲み屋に白羽の矢を立てた。
1軒ではすんなり終われぬこの性分、
生涯変わることがなかろう。
もっとも残り少ない生涯だけどネ。


【本日の店舗紹介】
「ブラッスリー・ポワソン・ルージュ」
 東京都品川区大井1-53-8
 03-3775-1660

 
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2009年9月11日(金)

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