第838回
浜田山再訪(その2)
京王井の頭線・浜田山に遠征している。
はるばる遠くにやって来たときは
1〜2軒の訪問では引き下がることができない。
この夜もすでに居酒屋「和田屋」と
ラーメン店「たんたん亭」をクリアした。
ここで帰りの電車に乗るわけにはいかない。
ツレの女性料理人は商売柄、そこそこの健啖家につき、
眉をしかめながらもついてきた。
あまり歓んでいないことが容易に推察される。
3軒目は以前から気になっていた日本そば屋。
コンクリート打ちっぱなしのモダンな店舗で
クラシックなそばを供するらしい。
界隈では評価の高い店の屋号は「安藤」。
何かのガイドブックで知ったのだが
鴨せいろと鴨南蛮が人気のようだ。
店内のテーブル配置がユニークだった。
大テーブルを中心に据え、相席を前提としたレイアウト。
数人いた先客はみな近所の常連さんらしく、
和やかな空気が流れている。
接客に当たるお婆ちゃんも人懐っこく、
鴨南蛮とともに彼女自身も店の名物になっている。
樽酒のつまみに手っ取り早いものをと新香を注文した。
この様子なら真っ当なうなぎ屋でお目に掛かれる
上新香のレベルに近いものが期待できよう。
杉樽の移り香かぐわしい清酒にピッタリだしネ。
と思いきや、
あにはからんや、登場したのは何と白菜オンリー。
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落胆のほど、けして小さくはない
photo by J.C.Okazawa
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それも大きな塊りが二つも・・・、である。
無粋といっては失礼だけれど、こりゃあんまりじゃないか。
誰が厨房を仕切っているのか席からは伺い知れぬが
その人のセンスを疑ってしまう。
それに冬場ならともかく、暑い時期の白菜は間抜けだ。
品書きの天ちらに目が留まった。
天ちらとは天ちらし、いわゆる天ぷら盛合わせのこと。
この日は、牛もつ煮・焼きとん・肉ワンタン・
チャーシューメンなどを食べ継いできた。
とてもじゃないが。ここで合鴨はごめんこうむる。
そこであまり深く考えずに、天ちらをお願いした。
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車海老がこっちを見てるぜ
photo by J.C.Okazawa
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するとこの天ちらも中ぶりの車海老が2尾のみだ。
白菜に続いて、再び落ち込んだ。
これを天ちらと書きなさんなよ、
素直にそのまま車海老天ぷらと書けばいいじゃん。
新香も天ちらも、いくら松本清張の地元だからといって
メニューの上のミステリーだけは勘弁してほしい。
傍らの女料理人がこっちを見て苦笑している。
その笑いがシニカルで、あざ笑っているように見えた。
こうなったら早々に退散するに限る。
〆のもりを所望した。
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薬味は小ねぎ・おろし・本わさび
photo by J.C.Okazawa
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中太・平打ちのそばはモチモチ系の食感がまずまず。
つゆは甘さを控えて無難な仕上がり。
だが、このクラスのそば屋なら都心には有り余るほどにある。
現時点の浜田山で訪れる価値のあるのは
「しむら」と「たんたん亭」の2軒だけかなァ。
【本日の店舗紹介】
「安藤」
東京都杉並区浜田山3-34-25
03-3306-0295
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