第840回
富士山を拝みに出掛けて(その2)
雲間からほとんど姿を現さない富士山を見切り、
つけ麺ならぬ、つけナポリタンなる際物を求めて
吉原の町を目指した。
身延線で富士駅に戻る途中、堅堀という小駅で下車。
炎天下を1時間以上歩いて吉原本町の商店街に入った。
ヤケにキッチュな建物や飲食店が多い土地柄だな、
奇妙な印象を持ったのだった。
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1階は中華料理屋とホルモン屋
photo by J.C.Okazawa
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これもまたホルモン焼き
photo by J.C.Okazawa
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何だか町全体がふざけているようにすら思える。
こういうものは市民の性格を表すものだから
よほど吉原の住人はシャレッ気が多いのだろう。
つけナポリタン発祥の「喫茶アドニス」の店先に到着。
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開いててよかった!
photo by J.C.Okazawa
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臨時休業に一抹の不安を抱いての訪問なのでまずは一安心。
ところが、とかくこの世はままならぬ。
入店しようとすると、ドアに貼り紙が1枚。
「本日、つけナポリタンは完売しました」
これを「ああ、無情」と嘆かずして何としよう。
フン、まったく商売ッ気のない喫茶店だ。
窮地に陥りながらも、ここで広げたのが
「タウンマネージメント吉原」という団体が
発行した、つけナポリタンのパンフレット。
カフェ・居酒屋・レストラン、
つけナポを出す店が計15軒も掲載されている。
「つけナポリちゃん」、「吉原トラトリタン」、
「ビストロつけリタン」、「つけナポリターノ」と
各店舗がネーミングに趣向をこらしているものの、
どれも一様に垢抜けない。
イタリア料理の「イルポンテ」などは
「つけナポリターノ デルポンテ 冬バージョン」
と、ずいぶん長ったらしい。
その日は夏バージョンの提供だったのだろうが
この店のためだけにパンフレットを刷り直すわけにもいかず、
写真はフォンデュ・スタイルの冬バージョンのままだ。
「喫茶アドニス」のすぐ近くにある「Cafe Sofarii」の写真が
おいしそうだったので、そちらに廻る。
カフェというより、西部劇のバーを偲ばせる空間が快適だ。
何よりも生ビールが抜群にうまい。
泡少なめでお願いした一番搾りの中ジョッキを
つけナポが来る前、立て続けに3杯飲み干した。
江戸時代の旅人じゃあるまいし、
遠路トコトコ歩いてきたご褒美がまさしくこれなのだ。
生まれて初めて食べる料理が目の前に運ばれた。
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紅白の彩りが視覚に訴える、つけナポリタン
photo by J.C.Okazawa
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期待もせずに一巻き口元に運んで
「おや、けっこうイケるじゃないか」――素直にそう思った。
ゆで置き麺はともかく、牛すじトマト煮込みのつけ汁がよい。
これだけでも立派なイタリア風牛すじ煮込みといえる。
加えてメルティング・チーズとシャトー・レモンも
舌先を変えるのに一役買って、なかなかの脇役ぶりである。
本日のノルマ2品、富士宮焼きそばと
つけナポリタンを無事クリアして、ほくそ笑む。
あとはローカル色豊かな居酒屋でも見つけて
土地の味覚を肴に一杯やるだけだ。
胸を弾ませて夕暮れの町に飛び出した。
【本日の店舗紹介】
「Cafe Safarii」
静岡県富士市吉原2-3-19
0545-51-3555
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