第843回
東大生と共に明治より(その2)
当コラムの読者、H彦サンのおすすめに従い、
東大前の「食堂 もり川」を久々に訪れている。
漱石や芥川も必ずや食していると思われる老舗は
数年前に改装されて、店内がだいぶモダンになった。
番茶のポットは卓上にデンと置かれ、
お冷やはセルフサービスとなっている。
隣りの卓の親子が注文した、さば塩焼き定食が
やっと出来上がり、母親が男児に食べさせ始めた。
するとそこへ若い女性が遅れて現れた。
彼女たちの会話がいやでも耳に入ってくる。
それがまったく聞いたことのない言語なのである。
見た目はほとんど日本人と変わるところがない。
箸を使う民族の言語としての
中国語・朝鮮語・ベトナム語ではない。
フィリピン語でもタイ語でもなかった。
マレー語とインドネシア語の区別はつかないが
どうやらその辺の国でもなさそうだ。
第一、二人の面立ちはマレー系ではまったくない。
となると、ミャンマー語ということになろうか。
おそらくそうだろう。
勝手に決めることにした。
おっと、余計なところに気が行ってしまった。
彼女たちにはそれこそ余計なお世話だ。
そんなことより、われらが昼食である。
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おでん付きの豚生姜焼き定食
photo by J.C.Okazawa
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豚生姜焼きはかなりの厚切りで登場した。
すでに包丁が入っているものの、
ちょっと見はポークソテーのそれである。
こいつはどうかな?
いぶかりつつもパクリとやると、
とても柔らかい上に、豚肉自体にコク味がある。
殊に脂身の甘さ、うまさは格別だ。
ただし、添えられた生野菜のドレッシングは
化学調味料が際立ち、こればかりはいかんともしがたい。
小鉢のおでんは、竹輪・厚揚げ・昆布・大根の構成ながら
おざなりな味付けでちっともうれしくない。
ニラ・もやし・にんじんが浮かぶ味噌汁は煮干し出汁。
こちらは打って変わって化調を感じさせず及第点。
きゅうり&きゅうりの新香もまずまずだ。
Mり嬢の日替わりは、まぐろのヅケとメンチカツ。
このヅケが半端な量ではない。
苦学して通う東大生には垂涎のまぐろ刺しであろう。
部位によってはスジッぽいところがあっても
上等の赤身が少なくなく、下手な定食屋なら
これだけでまぐろ定食として800円は取るだろう。
メンチカツもジューシーで丁寧に作られていた。
気になったのは「もり川」のホームページ。
店の歴史や味へのこだわりの欄が
準備中となっているのには目をつぶるとしても
品書きが値上げ前の値段のまま。
こういう杜撰(ずさん)さはいただけない。
食券売りのオバちゃんともども
どこか間が抜けてトンチンカン。
でも、食事が以前よりおいしく感じられたのは
紛れもない事実なのである。
【本日の店舗紹介】
「食堂 もり川」
東京都文京区本郷5-30-16
03-3811-1819
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