第846回
このそばを食べて30年(その1)
オカザワ家の墓は松戸市の八柱霊園にある。
千葉県に所在していながら、ここは都営の霊園。
海外赴任時代はなかなか来ることができなかったので
ここ数年は年に2度ほど、
墓前に香華をたむけるよう、心がけている。
墓参りを済ませたあと、
よく立ち寄るのが「そば処 関やど」。
そうちょくちょくはおジャマできずとも
かれこれ30年来のおつき合いだ。
松戸駅西口から徒歩3分ほどの場所にあり、
使い勝手が非常によろしい。
そして近隣の住人さんには失礼ながら
松戸にはあるまじき(?)名店なのである。
明治初年には松戸からそう遠くない流山で
開業していたというから筋金入りの老舗だ。
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「かんだやぶそば」にも匹敵するファサード
photo by J.C.Okazawa
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すぐそばには天丼の「関宿屋」があり、
こちらも訪れて悔いのない店。
海老と穴子が盛られた天丼が千円でいただける。
「そば処 関やど」は
今はなき両親もこよなく愛した店で
家族揃ってよく酒を酌み交わしたものだ。
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店内も居心地満点の空間
photo by J.C.Okazawa
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この日もやはり墓参りのあとに訪れた。
晩飯にはちょいと早い黄昏どきでも
晩酌にはけして早いことはない。
中休みを取らないそば店は
呑み助にとってまことにありがたい。
ビールはキリンラガーの大瓶。
すかさずグラスの脇にそば味噌が配された。
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丸薬のようなそば味噌玉
photo by J.C.Okazawa
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呑み助にはこれがまたとってもありがたい。
丁寧に作られたそば味噌は酒のアテに打ってつけ。
日本そば屋ならではの楽しみである。
本来はここで日本酒といきたいところだが
のちほど一仕事抱えているため、
当夜は自重してビールだけにしておく。
とりわさは生わさびではないから香りに乏しい。
しかも醤油が掛かりすぎていて相当にしょっぱい。
あまり注文しない一品は、やはりそれなりという感じ。
その日は暑いさなかに墓石の周りを掃ったせいか、
何かひんやりしたモノを舌の上に乗せたかったのだ。
そこへいくと、来店のたびに必ず頼むあい焼きは
安定感があって頼れる一皿の代表格。
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あい焼きは店イチ推しのつまみ
photo by J.C.Okazawa
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おのれの脂で焼かれた合鴨ロースに
粗塩をパラリと振り、熱いうちにやる。
添えられた長ねぎとしいたけも実にうまい。
鴨せいろや鴨南蛮を提供しておきながら
鴨焼きを出さないそば屋にはぜひ、
「関やど」を見習ってほしい。
ビールのお替わりをしながらいま一度、
品書きを手に取った。
締めのそばには、まだちと早い。
=つづく= |