「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第849回
一風変わったうなぎ屋さん

日本国内に柳橋と呼ばれる地名・橋名はあまたある。
つくば市・名古屋市・広島市と、枚挙にいとまがない。
福岡市の那珂川に架かる柳橋のたもとには
柳橋連合市場という、ちょうど東京の築地市場の
ミニチュア版のような市場があり、
博多の台所と呼ばれている。
博多に出掛けて行った折にJ.C.は
必ずこの市場で朝食や昼食をとることにしている。

東京人にとっての柳橋は神田川の最下流に架けられた鉄橋、
あるいはその一帯の花街を指す。
その昔、柳橋の料亭で遊んだお大尽たちは
ここから小舟を仕立てて大川(隅田川)をさかのぼり、
今戸橋から山谷堀に入って吉原に向かったものだった。

月日を経て栄華を偲ぶよすがとてないほどに
寂れ切ってしまった柳橋。
その根本の原因は川の汚染である。
汚れた水が臭気を放つようになっては
川遊びもへったくれもありはしない。
最近は水質が著しく改善されて
あの栄光をもう一度と期待できぬこともないが
一度命脈を絶たれたものの復興は至難なのだろう。

名匠・成瀬巳喜男監督に柳橋の花柳界を舞台にした
「流れる」(1956年)という名作がある。
画面に映し出される総武線のコンクリートの高架など、
今もあのときのままの姿で残っている。
実在の料理屋も2軒、映画に収められていて
すでに半世紀を経た現在も揃って営業中。
天ぷらの「江戸平」、うなぎの「よし田」である。

晩夏の一夜、カウンターが8席ほどに
テーブルが1卓だけの「よし田」を4人で訪ねた。
去年の春にうな重をいただいて以来だから
およそ1年半ぶりということになる。
話がしやすいようにカウンターの角々(かどかど)の
4席を取っておいてもらった。

この夜飲んだのはビールがサッポルの黒ラベルと
アサヒのスーパードライ。
そして日本酒が白鷹生酒である。
焼酎は芋がないのでよしにした。

前菜盛合わせは、いか塩辛・谷中生姜・
うなぎ肝煮凍り・四万十川産活川海老のボイルの陣容。
前菜を追いかけるように、鱧のおとしを本わさと梅肉で。
枝豆すり流し・うざく・子持ち昆布と食べ進んでゆく。
お次はまだ夏だというのにおでんだ。
ここのおでんは一風も二風も変わっていて
薄味仕立てをポン酢(ちり酢)で食べさせる。
したがって、おでんちりと称するのだ。
東京広しといえども、ほかに類を見ない珍品ではないか。

白いかの煮付けをはさみ、
続いてはこれまた珍しいうなぎのたたき。
軽く火を通したうなぎに、みょうがや大葉が散らされて
一度食べたが最後、白焼きに見向きできなくなる。
蒲焼き・白焼き・うざく・う巻きの定番に
ずっと固執するうなぎ屋は、あまりに芸がなさすぎる。
締めはうな重の代わりに小ぶりのうな丼を作ってもらい、
大満足で互いの顔を見合わせた4人は
にっこり笑って箸を置いたのであった。

【本日の店舗紹介】
「よし田」
 東京都台東区柳橋1-26-10
 03-3851-7802

 
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2009年10月5日(月)

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