第851回
アッと驚く銀鏡(ギンカガミ)
読者のみなさんは銀鏡をご存知だろうか?
銅鏡に対する銀鏡、いわゆる銀の鏡ではないし、
「吾妻鏡(あづまかがみ)」のような書物の類いでもない。
ましてや銀のツルの付いた眼鏡なんかでは毛頭ない。
実はこれ、サカナの名前なんです。
数ヶ月前までJ.C.もこのサカナのことは
まったく知らなかった。
見たことも聞いたこともなかったのである。
JR御徒町北口の改札前に
「吉池」というコンパクトなデパートがある。
食料品売り場や酒類売り場の品揃えは
別段、どうということもないが
別館の鮮魚売り場は都内有数の規模を誇っている。
鮮魚・乾物・加工品、あるとあらゆる海産物が
勢揃いする光景は圧巻で
すぐ隣りの松坂屋でも太刀打ちできるものではない。
日本橋の三越や高島屋とて同じことだ。
「吉池」で初めて銀鏡におめもじがかなったときには
目の玉が飛び出るほど驚いたものだ。
そしてその数秒後には思わず吹き出してしまった。
だってやけに面白い顔をしてるんですもの。
では、さっそくのご対面!
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銀色に輝く愛嬌モノ
photo by J.C.Okazawa
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その日はよそに回る予定があり、
買い求めること能わなかった。
サカナの干物の入ったレジ袋をブラ下げて
大のオトコが都会の街を歩くわけにはいかんわな。
それでも近いうちにぜひ1度、
コイツを食べてみたいと痛切に思ったことは確かだ。
それから「吉池」を訪問すること数回に及んだものの、
ついぞ再会が果たせずに半ばあきらめていた9月末。
幸運にも2枚入りの銀鏡の干物が2パック、
商品ケースに並んでいるのを発見した。
ここで遭ったが百年目、
親の敵(かたき)をやっとこさ見つけた
士(さむらい)のような心持ちがしたほどだ。
欣喜雀躍して金300円也のパックを1つ購入する。
非常に薄っぺらなサカナで
海の中をダイバーに向かって泳いで来ると、
その姿が見えないくらいだという。
縦1本の線に見えるそうだ。
棲み家は九州以南の水温の高い海原。
たまさか黒潮に乗って北上を続け、
駿河湾や相模湾にも現れるという。
翌朝、キッチンで銀鏡を焼くJ.C.の姿を見ることができた。
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なぜか焼くと腹が落ちてしまう
photo by J.C.Okazawa
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サカナ事典によると、食べるところがあまりないらしいが
独り者の朝食にはじゅうぶんな身肉が付いている。
血合いの多いサカナだけに風味が強く、真あじそっくり。
生醤油を数滴垂らせば、なかなかの美味であった。
でも、1枚食べればそれでじゅうぶん。
神保町「やまじょう」の女将におすそ分けすると、
案の定、彼女もアッと驚いたのでした。
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