「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第854回
東海道 鮨と鰻の 食べ歩き(その1)

浅草の観音裏に「栄寿司」という江戸前鮨店がある。
先代が亡くなり、現在は息子が三代目を襲名している
(何だかやくざみたいだな)。
もともと初代と二代目に血縁関係はなく、師弟の間柄。
はるか昔の話だが、
初代は喘息を患った娘さんのために
空気のきれいな真鶴に移転して
同じ屋号の「栄寿司」を開業した。
浅草店のほうは弟子に譲ったわけで
その弟子が亡くなった二代目だ。

秋風が吹き始めたある日。
伊豆の海が見たくなって早起きをした。
真っ直ぐ三島に向かい、昼にうなぎを食べ、
真鶴に回って海と戯れたら
先述の「栄寿司」で海の幸をつまみに
一杯やる腹積もりであった。

ところが世の中、思うようには参りませんな。
つまらん電話とメールのやり取りに時間を食われ、
出発が大幅に遅れてしまい、三島に直行しても
昼めしの時間がかなりズレ込んでしまう。
ここは仕方なく近い真鶴でランチ、
そのあと三島でディナーに切り替えた。

行きがけにあらためてネット検索をすると、
「栄寿司」の真ん前に「葵寿司」というのがあって
両者が競い合っているというではないか。
それも「葵寿司」の評価ががずっと高いのだ。
夜ならば「栄」でゆっくり酒を飲みたかったが
昼のサク飲みなら「葵」でもいいか、という気になった。

天気晴朗の下、真鶴駅から港を目指して坂道を降りてゆく。
目当ての「葵寿司」はすぐ見つかった。
港の前で本当に2軒が対峙しているではないか。
暖簾をくぐると、ほかに客は誰もいない。
入り口近くの水槽には真鯛・白鯛・そい・かさごが
泳いでいるが、中にはかなり体調の悪そうなのがいる。
それどころか、瀕死の床に着いてるヤツも。

サッポロの中ジョッキを一気飲みでやっつけて
お次は同じくサッポロ黒ラベルの大瓶だ。
突き出しは、小いさきの開きである。
ネタケースの中はそれなりの賑わいを見せている。
あまり時間がないので、さっそくにぎってもらった。
順に、花鯛・あぶり小むつ・小あじ・
ほうぼう・かいわり・白鯛・あぶり油かます。

春子を思わせる小ぶりな花鯛
photo by J.C.Okazawa


小あじは生姜と小ねぎで
photo by J.C.Okazawa


江戸前でも使われるようになったかいわり
photo by J.C.Okazawa


その名の通り、皮目の白い白鯛
photo by J.C.Okazawa

小あじ以外はすべて生わさびでやったものの、
サカナたちにそれぞれの個性がない。
どれも似たり寄ったりである。
花鯛・白鯛・あじなんぞは
酢〆や昆布〆でアクセントをつけたほうが
おいしく食べられると思えるだけに惜しい。

店主の息子がそば屋の修業を終えて戻って来ており、
自慢の手打ちそばをいただくと、
これが親父の鮨をしのぐほどのもの。
訊けば、目の前の「栄寿司」とは犬猿の仲だというし、
いっそ日本そば屋に商売替えしてみたらどうだろう。
無用な摩擦の解消にも寄与するに違いない。

             =つづく=


【本日の店舗紹介】
「葵寿司」
 神奈川県足柄下郡真鶴町真鶴685-3
 0465-68-2552

 
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2009年10月12日(月)

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