「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第869回
猫のいる酒場(その1)

江東区の木場・古石場界隈は思い出深い町である。
小学生の一時期、古石場に住み、木場の平久小学校に通った。
幸いなことに小学校は現在も廃校になっていない。
当時は小学校の地番も平久町(へいきゅうちょう)だったが
今は木場1丁目、ちょいと味気ない。

もう8年ほどになろうか
たまたまその小学校の前を通り掛かり、
正門のはす向かいにうらぶれた酒場を発見したのは――。
店の名を「河本」という。
道路からちょっと下がった半地下の変わった造り。
角地にあって、相当にガタがきている。
そこがまた独特の雰囲気を醸してもいるのだ。

毎日小学校に通い、正門を出たり入ったりしたのに
その頃は「河本」の存在にまったく気がつかなかった。
それもそのはず、当時の小学生が下校する時間なんて
せいぜい3時か4時がいいところ、
まだ暖簾も出ちゃあいない時間帯だし、
第一、小学生の興味を惹くのは酒場ではなく
駄菓子屋と相場が決まっている。

「何年前の話をしてるんだ?」――ほう、そうきましたか。
かれこれ四十数年になりましょうかねェ。
昭和37年のことですから、もうじき半世紀。
「そんな昔から『河本』はあったのか?」――ごもっとも。
でも、それがあったんですよ。
何とこの店、昭和8年の創業なんざんす。

鮨屋・うなぎ屋・洋食屋あたりだと、
こういう老舗もなくはないが
大衆酒場としてはかなり珍しいのではなかろうか。
ただし、開業時は甘味処だった。
現在のたたずまいからは
とてもとてもお汁粉屋なんぞ、想像もつかない。
フツーの人なら店先に立った瞬間、たじろぐこと請け合い。
つまらんことを請け合っても仕方がないが
東京広しといえども、こんな表情の店はほかにない。
入店にはかなりの勇気を必要としよう。
ところが、いざ入ってしまうと
何ともいえぬ和やかな空気が流れてるんですなァ。

半年ぶりでおジャマした。
15〜6名ほど座れるカウンターの内側で
看板娘ならぬ、名物女将が迎えてくれる。
はるか昔は押しも押されもせぬ看板娘であったはず。
店は接客を受け持つ彼女と
料理を担当する弟さん、2人だけの切盛り。
あとはいつも眠っている猫が1匹いるだけだ。
何とものんびりとした光景が
目の前に拡がっているのである。

キリンラガーをコップにトクトクと満たし、
ググッと空けて一息つく。
最初は湯豆腐の小さいほうを。
これがたったの100円ながら
豆腐半丁ぶんだから、食べ出はそこそこにある。
薬味はきざみねぎと削り節の正統派。

そして女将と並ぶこの店の名物、煮込みである。

牛もつの煮込みは300円也
photo by J.C.Okazawa

腸の内側にビッシリと脂身を蓄えており、
これは好みが大きく分かれそうだ。

          =つづく=

 
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2009年11月2日(月)

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