第870回
猫のいる酒場(その2)
下町・木場の大衆酒場「河本」で飲んでいる。
接客に当たってくれるのは看板女将のM美サン。
齢(よわい)、古希を超えただろうか、
ほのぼのとした立ち居振る舞いが
店の空気に溶け込んでいる。
「河本」の煮込みは腸壁の脂が半端でないから
若い女性には、尻込み派が現れそうだが、
好きなオヤジには垂涎の的。
中年の小太りのオジさんが独りでやって来て
煮込みのお替わりしたときには
思わず横顔をジッと見つめてしまったほど。
J.C.は得意でも苦手でもない中間派だが
2人で1人前をシェアするのが理想的だ。
そしてこれだけは断言できるのだが
「この煮込みは熱いうちに食え!」である。
放っておくと寒い朝に見る昨夜のすき焼きの
残り状態になってしまうからだ。
酒をホッピーに切り替え、かれいの煮付けとおでん。
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大きな子持ちかれいが400円
photo by J.C.Okazawa
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煮魚はかれいが一番で、それも子持ちがうれしく、
高級な目板やなめたでなくとも存分に楽しめる。
こちらも同じく400円のおでんは
M美サンがアトランダムにみつくろってくれた
つみれ・すじ・がんも・いか巻き・こんにゃくの5点。
ごくフツーの素朴なおでんである。
格別にうまいモノがあるのではないが
いずれの皿も昔ながらの奇をてらわぬ明快な味。
昨今はかえってこういう酒場を探すのが難しくなった。
創作料理とまではいかなくとも
背伸びのしすぎ、脇目の振りすぎで
結局はイジりこわしてしまう店が多い。
10年、20年続いたところでも代替わりした途端、
ガラリ意趣変えする店が少なくないのだ。
店が立て込んできて新しい客の座る席が
なくなってきたと思ったら隣りの先客2名がお勘定。
「あら、もういいの?」
M美女将に問われて
「ええ、これから『魚三酒場』に行って来ます」
2人のうちの1人が応える。
「今、通ってきたけど『魚三』はスゴい行列でしたよ」
割って入ったのはJ.C.である。
「エエ〜ッ!」
言葉を失う哀れなる2人。
ふと見ると、M美サンの愛猫が今宵もまた
カウンターの隅で眠っている。
何の気なしに猫の名前を訊ねると
「おしまってゆうの」
猫の名もまた、店の空気にぴったりじゃないか。
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眠れる「河本」のおしま
photo by J.C.Okazawa
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これも何かの縁だ、猫つながりでついでに
本邦初公開のわが愛猫を紹介してしまおう。
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眠れるわが家のプッチ
photo by J.C.Okazawa
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悪い奴ほどよく眠る人間とは逆に
猫の場合は、よい猫ほどよく眠るのだそうだ。
【本日の店舗紹介】
「河本」
東京都江東区木場1-3-3
03-3644-8738
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