「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第880回
「とんぼ」にて豚を食べる

高校三年生のとき。
舟木一夫が歌った通りに天気のよい日はいつも
赤い夕陽が校舎を染めていた。
夏休みが終わったら大学受験に備えようと
ぼんやり考えていた、その夏休み。
同級生のN澤クンの家で何度か麻雀をした。

夕暮れになると、彼の母親が近所の店から
カレーライスやカツカレーを取ってくれた。
受験があろうがなかろうが、
高校三年といえば、まだまだ食べ盛り。
日常的にすきっ腹を抱えていたから
晩めしを2回食ってもへっちゃらな時期である。

二年途中でやめたが、部活でサッカーをやっていた頃など、
練習終了後に校門前の中華屋に飛び込み、
ラーメンだのソース焼きそばだの、
とりあえず単価の安いものをやっつけたあと、
帰宅後あらためて食卓に向かう日々。
そんなときにカツカレーなんぞ出されてごらんなさい。
つき合っていた彼女のことなんかケロリと忘れて
目の前の皿に目が釘付けになったものだった。
カレーの白い皿には確か、トンボの絵が描かれていて
店の名前も「とんぼ」だったと記憶している。

数ヶ月前、散歩の途中に通り掛った池袋西口の立教大そば。
偶然にもその「とんぼ」を発見した。
瞬時に懐かしさがこみ上げたことは言うまでもない。
洋食屋だと勝手に決めつけていた「とんぼ」は
意に反してとんかつ屋であった。
思い起こせば、N澤クンの家も同じ通り沿いにあったのだ。

発見した時間は食事どきを外れていたので
あまり日をおかない後日、
胸弾ませて独り訪問したのである。
こういう心持ちのときは独りがよい。
余計な人間を伴うと、気が散っていけない。

「とんぼ」は初老のご夫婦が2人きりで営んでいた。
思い出のカツカレーにするつもりが
メニューを見ていて心変わり。
とんかつ専門店だから、ここはとんかつを食べておきたい。
気に入たら再訪してカツカレーを食べれば済むことだ。
結局、店の名前を冠したとんぼかつ定食にする。

このときBGMがスプートニクスの
「霧のカレリア」に変わった。
これもまた高校時代によく聴いた懐かしの曲。
心の奥で何かが弾けたのがよく判る。
これだけでここを訪問してよかったと思えてしまう。

とんぼかつは何の変哲もない薄めのロースカツだった。
からりと揚がって香ばしいが、ただそれだけのこと。
どこのとんかつ店でも普通に食べられる標準的なものだ。
あの日あんなにおいしかったのに
今は「べつに・・・」なのである。
店のレベルがオチたのか、自分の舌が肥えたのか、
おそらく後者であろう。

かくして
夢破れて、山河あり。
障子破れて、サンがあり。
なのでございました。


【本日の店舗紹介】
「とんぼ」
 東京都豊島区西池袋3-23-5
 03-3983-1686

 
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2009年11月17日(火)

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