「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第886回
伝説の焼きとん屋(その2)

18時15分。
赤羽の焼きとん「米山」の暖簾が軒先に掲げられた。
そのとき行列を成していた三十有余名の客から
いっせいに大きな歓声が沸き起こったかというと
そういうことはまったくなくて
客たちは刑場に引き立てられる罪人のごとく、
終始無言のまま、やや緊張を伴いながら
おずおずと入店したのである。

ここで一安心するのは早計で、ここからがまた長い。
飲みものの注文までに15分。
焼きものの注文はそのあとまた15分。
したがって酒はともかくも
焼きとんの最初の一串が出てくるまでに
小1時間を費やすことになるのである。
「米山」は店先に現れてから退店まで
3時間の覚悟を強いられるフレンチのグランメゾンも
真っ青の空恐ろしき店なのだ。

扱うビールの銘柄がふるっている。
エビスのザ・ホップなんだな、これが!
緑のラベルにはしっかりと恵比寿さまが描かれている。
J.C.の知る限り、この銘柄のビールしか置かない飲食店は
東京、いや日本広しといえども、この「米山」だけだ。
好きな人にはいいけれど、苦手な人には困りもの、
サッと飲んですぐにホッピーの白にスイッチした。
氷を使わず、焼酎自体を凍らせた女性には危険なヤツだった。

最初のつまみのレバ刺しとタン刺しはおろしにんにくで。
豚でも牛でも、もつ類の刺身はめったに注文しないが
W辺サンが好きなので彼の嗜好を尊重した。
焼きもののトップバター、ナンコツの塩がすばらしい。
固いところは細かくたたいてつくねに回すから
きわめて上質のナンコツを味わえる。
続いての動脈はタレでお願い。
甘さ控えめの生醤油が主張するタレだった。

半焼きレバーには黒胡椒が利いている。
箸休めのまかろにさらだ(ママ)も黒胡椒がタップリの上、
玉ねぎの辛味が衝撃を倍加して、すさまじいパンチ力。
ハムの風味がアクセントとなって個性的な仕上がりだ。
舌先を変える意味でも必食の一皿として推奨したい。
そのあとのつくねにもスゴい黒胡椒。
大航海時代のヨーロッパ人じゃあるまいし、
ここまで胡椒にこだわらなくてもと思うが
これこそが「米山」の一大特徴を如実に表している。

締めは名代の煮込み。
塩仕立てのあっさり煮込みは当代一との評判を聞いた。
どんぶりで登場したそれはうっすらと醤油の色付きも見られ、
大阪や讃岐のうどんみたいな感じ。
言わば、かけうどんのうどんの代わりに
豚のシロもつが投入されている景色。
評判にたがわず、東京三大煮込みに数えられる
「山利喜」・「岸田屋」・「大はし」を凌駕していた。

この夜は相棒のW辺サンもネムリに落ちずに頑張ってくれ、
肝心の支払いはお二人様金五千円でオツリがきた。
店主が飲みものとつまみと勘定を担当し、
彼のオフクロさんが焼きもの一切を受け持つ。
忙しいから余分な愛想はないが
時間に余裕がある向きには実にいいお店です。


【本日の店舗紹介】
「米山」
 東京都北区赤1-64-7
 03-3901-7350

 
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2009年11月25日(水)

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