第891回
私娼街の残り香(その3)
私娼街のあった玉の井でのハシゴ酒も
いよいよ3軒目となって真打ちの登場。
酒場放浪者にはお馴染みの「三河屋」の引き戸を引く。
店内は先客たちで活気づいているものの、
運よくカウンターにいくつかの空席があり、
これ幸いと滑り込む。
「十一屋」でビール、「大吉」ではハイボールを飲んだ。
ビール好きにつき、再びビールに戻った。
つまみの第一ラウンドは水餃子と鳥もものバタ焼き。
この店は良心的な価格設定が目玉で
それぞれ300円と400円である。
しかも半端な中華料理屋や、
下手な焼き鳥屋よりもレベルが高い。
ツレと協議の結果、今宵はここで打ち止めとすることに。
時間と体力が許せば荒川を渡って
四ツ木の名酒場「ゑびす」に回る妙手もあるけれど、
「三河屋」にはほかに飲みたいもの、
食べたいものがあることだし、
じっくりと腰を落ち着ける気になったのだ。
ほどなく現れた2枚の皿がそれぞれにおいしそう・・・。
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辣油入り醤油で食べる水餃子
photo by J.C.Okazawa
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黒胡椒をたっぷり振った鳥もものバタ焼き
photo by J.C.Okazawa
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片栗粉を混ぜているのだろう、
餃子の皮のモチモチ感が何とも言えない。
ジューシーな餡も上出来である。
鳥ももだって負けておらず、バターとの相性がよろしい。
他店ではこぞって塩焼きや照焼きにするが
バタ焼きの旨さを再認識してもらいたい。
ビールの大瓶がカラになり、
続いてはウイスキーのハイボール。
下町のハイボールは焼酎ベースが基本ながら
世間一般の常識的なハイボールはウイスキーが基本である。
魔が差したのか、若い頃ならいざ知らず、
最近ではめったに飲まないウイスキーが飲みたくなった。
昔の恋人と逢引してるような気分もまたよし。
周りはワイワイガヤガヤと騒音を発している。
それよりもむしろタバコの煙りのほうが厄介だ。
店主夫妻はそんなことにお構いなし、
マイペースで調理と接客にいそしんでいる。
2人の人柄もこの店の魅力だろう。
つまみの第二ラウンドは一口海老天。
それにさっきの仇(かたき)をここで取ろうと、
またまたイカフライを注文。
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カラリと揚がった一口海老天
photo by J.C.Okazawa
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パン粉の付きのよいイカフライ
photo by J.C.Okazawa
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小さな海老は甘海老だった。
北の冷たい海で獲れる海老は
概して刺身がよいが、天ぷらもまずまずだ。
イカフライはこちらのほうがはるかによく、
しっかりと「大吉」の仇討ちを果たした。
締めに選んだのはソース焼きそば。
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豚肉とキャベツがいっぱいの焼きそば
photo by J.C.Okazawa
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ふんだんな具材もさることながらシコシコ麺がグッド。
水餃子の皮もそうだったが
この店の主人に粉モノを扱わせれば天下一品だ。
当夜、訪れた3軒を総括すると、
「十一屋」は必再訪、「大吉」の再訪はビミョー、
「三河屋」は3ヶ月に1度は通いたくなるほどだった。
【本日の店舗紹介】
「三河屋」
東京都墨田区東向島5-40-6
03-3611-1832
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