第907回
タンメン奮闘記
世の中はクリスマス・イヴだというのに
タンメンというのも何だかなァ。
まっ、「庶ミンシュラン」主宰としてはこれもアリか。
10月末から11月下旬までの1月弱の間に
すすったタンメンの数は20杯を超えていた。
「めしとも」に載せたのは、西荻「坂本屋」・
「御徒町食堂」・上中里「百亀楼」・大森海岸「満福」・
大井町「八幡屋」の5軒。
この中でもっとも印象に残ったのは「八幡屋」である。
何せ、齢(よわい)87歳になられるお婆ちゃんが
たった独りで営むのだから、すでに神話の世界だ。
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住宅街に赤提灯がひっそりと
photo by J.C.Okazawa
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そっとガラス戸を引いたら、店内はモクモクの煙だらけ。
小石を敷いた中華鍋で焼き芋風に絹かつぎを焼いていて
それが焦げ始めたのだった。
こりゃ大変と、大声で奥に向かって叫んだものの、
誰も出て来る気配すらない。
勝手に水を掛けるわけにもいかず、やきもきしていたら
しばらくしてやっと、くだんの婆ちゃんが現れた。
入店早々、いきなりケムに巻かれちゃった感じ。
浅草「来集軒」&「あづま」・入谷「明華」・業平橋「復興軒」・
向島「興華楼」・銀座「三原」&「萬福」・根津「オトメ」・
千駄木「砺波」・早稲田「メルシー」・志村坂上「共栄軒」・
下北沢「来々軒」・豪徳寺「満来」・柴又「旭屋」。
タンメンを求めて都内をあちらこちらとさまよった。
昨日のコラムで触れた2軒は大好きな恵比寿「前川」と
酒場「富士川」のあとに訪れた大森「喜楽」。
同じ日の昼と夜に食べたのだった。
「前川」はちょうど1年前に偶然発見した店。
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この佇まいに心奪われた
photo by J.C.Okazawa
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暖簾が何とも言えずにいい味を出している。
老夫婦だけが切盛る店は
もともとサッポロラーメン専門店だったようだ。
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具は豚小間・キャベツ・ニラ・もやし
photo by J.C.Okazawa
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中太ちぢれの多加水麺がいかにもサッポロ風で
タンメンによくマッチしている。
スープもおいしくて途中で酢を注す気になれず、
辣油を先に垂らして、これが正解。
しかも今回めぐった店舗中、最安値の500円ポッキリが
お二人の経営姿勢を如実に示しており、頭が下がる思いだ。
大森ガード下の「喜楽」はルーツをたどれば
どこかで渋谷・道玄坂の「喜楽」、
そして大井町「永楽」とつながっているものと思われる。
今は無縁の間柄でも供されるラーメンがそっくりなのだ。
それも揚げねぎともやしが特徴的な極めてユニークなもの。
単なる偶然で片付けられる代物ではない。
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タンメンには半割り玉子がささやかなプレゼント
photo by J.C.Okazawa
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この店の名代はもやしそばで、事実タンメンを超えている。
あれは小学校3年生のときだったが
母親に連れられ、1軒の中華屋でもやしそばを食べた。
後日、叔父(父親の弟)に
「ツルッツルのおそばがおいしい店だよ」と感想を述べたら
「そばはツルツルが当たり前、変わったことを言う子だよ」と首を捻られた。
大森駅近くの店だったが、はっきりと覚えていない。
ひょっとしてこの「喜楽」だったのかも・・・。
ここだった確率は3割3分3厘といったところでしょうか。
【本日の店舗紹介】その1
「八幡屋」
東京都品川区大井4-15-16
03-3771-4277
【本日の店舗紹介】その2
「前川」
東京都渋谷区恵比寿1-22-10
03-3442-6083
【本日の店舗紹介】その3
「喜楽」
東京都大田区南馬込3-26-3
03-3777-0737
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