「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第921回
実力発揮の「鮨 おちあい」(その1)

「週刊現代」に連載中の「今週のうまいもの番付」で
“銀座の寿司をランチで気軽に楽しもう”と銘打った
コラムを担当したのは先月の半ば。
およそ3〜4千円の予算で
きっちりとした江戸前のにぎり鮨を
食べさせてくれる店を10軒ピックアップした。

横綱はコアビル裏にある老舗の「新富寿し」。
大関は新鋭の「鮨 おちあい」と
古参の「寿司 ほかけ」を選んだ。
今日は開業たかだか2年にして
着実に力をつけ、実力を発揮し始めた
「鮨 おちあい」にスポットライトを当てる。

当夜は妙齢のご婦人と2人して
逆くの字形カウンターの角近くに並んで着席。
われわれを含め客は6名のみだった。
そのせいか女将さんはお休みのようで
若い親方が孤軍奮闘というシチュエーション。
いくら6名でも職人独りきりではかなり大変だ。
生ビールのサーバーもカウンターの外にあり、
その都度、包丁を置いて外に出てゆく姿がせつない。

「どういたしましょうか?」
「つまみで飲んでからにぎってもらいますけど、
 サカナが重複しないようにお願いします」
「ええ、それはもう・・・」
「でも、皮はぎは両方ほしいな。
 大好きなので皮はぎだけは特別に」
「かしこまりました」

こんなやりとりが店主と交わされ、いざスタート。
アサヒの生とともに出た突き出しは生たら子の煮凍り。
助宗鱈の真子、いわゆる助子を甘辛く煮つけて冷やしたものだ。
鱈の白子は真鱈のほうがよいが、真子は助宗が断然上。
真鱈白子、助宗鱈真子、どちらも大好物である。

続いてはいかの塩辛。
丁寧に作られてはいても特筆するほどにない。
それに鮨屋でいかの塩辛はいささか退屈だ。

さっそく皮はぎ刺しが供された。
もちろん肝醤油を添えて――。
肝があるからふぐ刺し以上に皮はぎが好き。
大分県まで行くと、ふぐの肝が食べられるが
残念ながら未だに食べたことはない。

その大分へは一度だけ行ったことがある。
東京駅からブルートレインで20時間もかかったのに
大分駅到着後、すぐに空港に移動して東京にトンボ帰り。
NHKの駅弁を紹介する海外向け番組に
出演したときのことで、県下の滞在時間はたったの1時間。
道東ロケのときには3泊もしたのに
できることなら大分でも一夜、飲み歩いてみたかった。

さてさて、「鮨 おちあい」である。
すばらしいはぎ刺しのあと、
続いては石川県に揚がった鰤(ぶり)である。
石川県ということは寒鰤で名高い富山県の氷見産ではない。
石川のどこかは店主も把握していなかったが
海に境目があるじゃなし、隣県の鰤だって悪いわけがない。
脂の乗った腹身が薄めに切られて供された。
“薄め”というのが実に大事なところで
厚く切っては舌にしつこい脂ッ気が残ってしまう。
まさに一流鮨職人のデリカシーが成せる業(わざ)。

           =つづく=

 
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2010年1月14日(木)

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