第924回
かき南蛮の季節(その2)
谷根千界隈では評判の日本そば店「鷹匠」に来ている。
入れ込みの板の間で胡坐をかいている。
もちろん座布団をちゃんと敷いて――。
小雨というより氷雨そぼふる寒い日の昼下がり。
悪天候のせいか、客はほかに若いカップルが1組だけ。
氷雨と言えば、歌謡曲の「氷雨」を競演した男女の歌手は
それぞれどうしているのだろうか・・・。
「氷雨」が流行っていた当時、
皇太子殿下がこの曲をカラオケで歌ったと
何かの雑誌で読んだことがある。
マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」を
愛聴していることは存じ上げているが
なかなかに“芸域”の広い殿下ではありますな。
せいろ・深山・かき南蛮をシェアするので
別に順番の指定はしなかったが
最初に運ばれたのは深山、太打ちの田舎そばである。
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包丁冴えわたる深山
photo by J.C.Okazawa
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エッジが立って美しいそばである。
イタリアのパスタではとても太刀打ちのできない、
日本のそばがここにある。
しかしながら、実際に味わってみると、
強すぎるコシが主張し過ぎてしまい、
歯応え、舌ざわりがはなはだよろしくない。
これならアルデンテのパスタのほうがありがたい。
薬味のさらしねぎと大根おろしはよいのだが
そばつゆとの折合いがイマイチなのだ。
続いてせいろの登場。
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せいろはグッと女性的でしどけない
photo by J.C.Okazawa
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先ほどの深山に対しては遠慮がちだった歯も舌も
わが意を得たりと喜び勇んで、よく噛み、よく味わっている。
フンッ、ゲンキンなヤツラめ。
12時半になろうとするのに客の来店はなく、
店内はガランとしている。
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われわれ含めて客は4人のみ
photo by J.C.Okazawa
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早朝(7時半〜9時半)の営業時間帯に
客が押し寄せて来るとも思えぬから
よくこれで商売が成り立つものだと、
余計な心配までしてしまう。
人の心配をよそに、待望のかき南蛮が出来上がった。
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深山でお願いしたかき南蛮
photo by J.C.Okazawa
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種モノにせいろそばでは熱いつゆに負けてしまうので
ここは深山でお願いしたのだ。
案の定、冷たいときには強すぎたコシがつゆと真っ向勝負、
一歩も退くことなく、土俵中央でがっぷり四つだ。
かきは粒よりなのが3つ。
ツレはかきアレルギーなので、これは独占である。
代わりにこれまた3つあった長ねぎを2つに
紅葉麩と結び三つ葉は進呈に及んだ。
あっちゃこっちゃで食べてきた、かき南蛮とかきせいろ。
現時点での気に入りは、両国は北斎通りの「業平屋」かな。
初場所が終わって人が引いたら隅田川を渡り、
かきせいろで晩酌を目論むJ.C.でありました。
【本日の店舗紹介】
「鷹匠」
東京都文京区根津2-32-8
03-5834-1239
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