「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第944回
すし屋横町でつつく鍋(その1)

かつては浅草きっての繁華を極めた六区興行街の南端に
雷門通りへと続く長さ50メートルほどのアーケードがある。
昭和33年の浅草寺再建と同時に完成していて
都内でも指折りの歴史を誇るアーケードの名を
すしや通り、通称すし屋横町という。
最盛の明治末期にはこの短い商店街に
18軒ものすし店が軒を連ねていたというから
さぞや壮観であったことだろう。

現在は主役のすし店が数軒に激減してしまい、
焼肉屋やインド料理店が取って代わっている。
有名な「入山せんべい」だけは今も健在、
日がな客足を途切らせることがない。

J.C.がすし屋横町で訪れるのは
江戸前鮨の「末広鮨」、大衆中華の「あづま」、
そして居酒屋というか、食事処と呼ぶか、
とにかくそんな雰囲気の「三岩」である。
なぜか正月の初詣の際に立ち寄ることが多い。

名の通ったふぐや天ぷらや釜めし、
あるいはすき焼き屋とは異なり、
気軽に暖簾をくぐれるのが何より。
混み合っていてもちょいと待てば
席にありつけるのがありがたい。
初めて入店したのが1999年の正月2日だったから
早いもので、もう一昔を超えた。

今年の訪問は1月4日の宵の口。
数年前から参詣している白鬚神社の帰りであった。
唐突ながらJ.C.はコートを着ない主義。
もちろん厳寒のニューヨークでは羽織ることがあった。
といっても郊外や他州はもとよりマンハッタンでさえ、
どこへ行くにも愛車と一心同体だったから
クルマがコート代わりのようなもの、
めったに袖を通すことがなかったのである。

飲食店に寄るたびに脱着するのがわずらわしく、
多少の寒さなら我慢したほうが手っ取り早い。
雨模様の天気にも言えることで
雨傘を持ち歩くより、少々濡れるほうを選ぶ。
もちろん大雨の場合はその限りではない。

近年、東京の冬はコートなしで歩いても
ほとんど寒さを感じることがない。
その日の墨東もそうだった。
隅田川沿いを下って来て川風にさらされたというのに
身体の芯まで冷え切るということがない。

「三岩」の2階にくつろぎ、
例によってスーパードライの大瓶をトクトクのグビグビ。
「プッファ〜!」――幸福感が身も心も満たしてくれる。
夏ほどではないが、冬のビールもまた格別、格別。

速攻で注文したのはニシン酢。
オランダや北欧で愛されるのはニシンの酢漬だが
わが日本、それも東京、しかも下町では
何を隠そう、酢〆である。

想像以上に立派なニシン酢
photo by J.C.Okazawa

粉わさ100%の練りわさびを
チョコンと乗せてパクリと1切れ。
いいじゃないですか、けっこうじゃないですか。
あとは鍋をつつくといたしましょうか。

            =つづく=

 
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2010年2月16日(火)

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