「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第954回
雷蔵を観たあとで

むかし、むかし、新宿伊勢丹本店のすぐそばに
ちいさな、ちいさな、映画館がありましたとサ。
今日は昔ばなし調で始めさせていただきました。
冗談はさておき、昭和3〜40年代のこと。
伊勢丹と明治通りをはさんだ向かいに
シネマ新宿なる小劇場があった。
席数はたかだか30席ほどだったと記憶している。

初めてこの映画館で観たのは
ルキノ・ヴィスコンティの「若者のすべて」。
主役のアラン・ドロンは
「太陽がいっぱい」を撮った直後の出演だ。
脇を固めたのはアニー・ジラルドと
レナート・サルヴァトーリ。
2人はこの共演が縁で結ばれ、
早くしてサルヴァトーリが亡くなるまで
仲むつまじい夫婦であった。

高校の同期生で元スッチーのO形サンから
映画の切符をもらった。
市川雷蔵ファンの彼女がくれたのは
2月末まで開催されていた大雷蔵祭のチケット。
上映館はかつてシネマ新宿があった場所のすぐそば、
角川シネマ新宿なる、やはり小劇場だった。

このお祭り、いちどきに何十本も掛けるので
上映スケジュールは目まぐるしい。
自分の予定と照らし合わせて選んだのが
五味康祐原作の「二人の武蔵」だ。
奇妙なストーリーは長谷川一夫の平田武蔵と
市川雷蔵の岡本武蔵が揃ってスクリーンに登場してくる。
映画としては他愛なく、秀作とはいいがたいが
思わぬ収穫は往年の美人女優・近藤美恵子であった。

終映後、独り夜の街に出る。
さて、何を食べるべェか、と思案投げ首。
取りあえず界隈をグルリと一周してみる。
このとき目を引いたのが「新宿栄寿司本店」。
テーブル席の並ぶ大衆店ながら
歴史をも感じさせ、風格のあるたたずまい。
通りからガラス越しにのぞくと店内は相当に盛っている。
仕事帰りのオヤジリーマン、ワケありのカップル、
客層様々にしてその様相もまた、悲喜こもごもの景色。
普段はめったに、いや、絶対に入らぬタイプの店ではある。
なぜって、ほぼ間違いなく生わさびの備えがないからだ。
それがどこでどう間違ったものやら、
おそらく目前の人間模様に誘われたのだろう、
フラフラッと入店してしまった。

運よくカウンターに空席があった。
どうせ長居をすることはないし、
このあと足の便のよい四ツ谷か神保町に
流れるに決まっている。
ビールを頼み、さっそくにぎってもらうことにした。
ちなみにビールの突き出しはいかの雲丹和え。
小肌・さば・赤身・しゃこ・北寄貝・中とろとやって
よかった小肌・さばをアンコール。
締めは赤貝ヒモときゅうりのいわゆるヒモキュウ巻き。
チューブやレトルトではない、粉わさびのほうが
むしろ雑味がなくて馴染みやすい。
ビールの中瓶2本に突き出しを含め、勘定は金3355円也。

地下にもぐって新宿三丁目駅。
副都心線に乗ってしまうと自宅に近づかないので
ここは丸の内線か新宿線の二者択一。
はて、今宵行く先は四ツ谷か? はたまた神保町か?
いずれにせよ、“直帰”の選択肢はございますまい。

【本日の店舗紹介】
「新宿栄寿司本店」
 東京都新宿区新宿3-6-2
 03-3351-2525

 
←前回記事へ

2010年3月2日(火)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ