「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第955回
恥部でも秘部でも行ったモン勝ち

子どもの頃の縁日の思い出となると2箇所ある。
平和島の美原通りと門前仲町の深川不動尊である。
そこは下町のこと、風情で勝るのはもちろん深川、
それくらいのことは小学生にも判る。
棲んだのは短い間なのに門仲の記憶は強く残っており、
水掛け祭の本祭を体験したことも影響していよう。

わが友人にして徘徊の達人、坂崎重盛翁の著書に
東京煮込み横丁評判記」(光文社)なる1冊がある。
前にも当コラムでふれたが、これが実に面白い。
現在、J.C.が月刊誌「めしとも」で
煮込みの連載を担当しているから言うのではない。
さすがに嵐山光三郎さんの刎頸(ふんけい)の友で
力みのないすっとぼけた文体が読む者の脇腹をくすぐる。

永代通りと清澄通りがぶつかる交差点の北東コーナーの
裏路地に辰巳新道なる、芝居の書割の如き一角があり、
すばらしい雰囲気を醸し出す。
坂崎翁はくだんの著書にこう記している。

深川ゑんま堂を過ぎ、高速の下をくぐれば、左に赤札堂。
この赤札堂のすぐ先の一角、これぞ門仲の恥部、
いやとんでもない、秘部(おんなじか)といわれる
辰巳新道の飲み横エリアがあり、・・・・・

とまあ、こんな塩梅だ。
重ねて書くが、この書割がすばらしい。
恥部でも秘部でも陰部(スミマセン)でも構いやしない、
とにもかくにも行ったモン勝ちなのである。

この辰巳新道随一の焼き鳥屋が「鳥信」。
最近は都内各地に優良な焼き鳥店が林立するようになり、
ちょっとやそっとの“品物”では誰も驚かなくなった。
しかるにこのロケーションにこの空気の中、
くわえた焼き串を引きながら
酌む酒は何物にも代えがたい魅力に満ちている。

串が焼けるまで自家製のぬか漬でビール。

一目見てその美味を確信
photo by J.C.Okazawa

店主は焼き物にかかりきりだから
包丁と盛付けは女将の所業であろう。
こんなところに人のセンスが如実に表れる。

この夜は木場の「河本」に寄って来たから
そんなには食べられない。
菊正の上燗をつけてもらい
にく(もも)、ネック(首肉)、心臓(ハツ)、
ペコロス(小玉ねぎ)を塩で
レバーとつくねはタレで次々にいただく。

ハツ塩とレバタレ
photo by J.C.Okazawa

そして締めには可哀想だが寒雀。

小雀の成仏を祈りながら頭からガブリ
photo by J.C.Okazawa

つくづく因果なことである。
目刺しやシシャモのときには
生き物の死を意識することもないのに
雀となるとハナシは別だ。
そのくせ仏料理店で食べるウズラやハトには無頓着だから
われながら支離滅裂ではないか。
そんなことを考えつつ、
「うん、うん、同じ鳥でも鶏と雀は別物だな」
骨をバリバリやりながら
珍味に感心することしきりであった。


【本日の店舗紹介】
「鳥信」
 東京都江東区門前仲町2-9-4
 03-3643-5821

 
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2010年3月3日(水)

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