第956回
かきはローマの昔から
かきのシーズンが終わろうとしている。
ところが台東区・柳橋の洋食「大吉」では
瀬戸内・能美島産のかきを一年中、提供している。
マイクロバブル製法でかきの産卵パターンを
変えてしまうからこその離れ技なのだそうだ。
そもそもかきは古代ローマの皇帝や貴族たちにも
こぞって愛食されてきた。
日本でも方々の貝塚でかき殻が大量に出土しており、
縄文時代、いやもっと昔から食べられてきたのだろう。
ついこのあいだ、たまたま知ったことだが
中国の養殖かきの生産量が日本の15倍に達するという。
にわかにこの数字を信じることができなかった。
はたして中国人はそこまでかきを食べるのだろうか。
四半世紀前、シンガポールに赴任していたとき、
ホーカーズセンターと呼ばれる屋台村で
オイスターオムレツをよく見かけたものだが
かき自体があまりに小粒で
しかも暑い国のかきには大きな抵抗があり、
4年の間にほんの数回しか食していない。
隣りの韓国でさえ、日本の1.5倍を産するというから驚く。
ある朝、目覚めて突然に
かきのバタ焼きとフライの両方が食べたくなり、
となれば築地市場の「小田保」に限るとばかり、
昨秋訪れたにも関わらず再訪した。
もちろんお目当てはカキフライ&カキバター定食だ。
正門から市場に入ったので
食堂「磯野家」の前を通り掛かった。
この店には名物のかきめしがある。
しかも小サイズの用意があるから
ほかに1〜2品取ってビールの友とし、
最後にかきめしで締めることが可能となる。
正直言って迷いました。
何事もスパッと決める性格なのに
食べもののことになると、途端に優柔不断になる。
いけない、いけない、ここは初心を貫徹せねばならぬ、
うしろ髪引く魔の手を振り切り「小田保」に直行。
ここでは料理が出来上がったら一気呵成に
白飯をかきこもうとビールをあきらめ、
熱い緑茶で凍える手を温めながら待つことしばらく。
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3粒ずつの理想的な組合わせ
photo by J.C.Okazawa
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姿カタチがハッキリ見て取れるぶん、
カキバターのほうがより食欲をそそる。
三つ葉と豆腐の味噌汁、ごはんがついて1300円。
お値打ちであろう。
カキフライもカキバターもカキ丼も一律1300円だ。
ここ数年、取材以外に築地市場で鮨を食べていない。
さして秀でた鮨が出て来るわけでもないし、
店先で1時間以上も待たされた上、
やっとつけ台に落ち着いたと思ったら
両サイドの客と肩肘接する狭苦しさ。
接客のオバちゃんにはたびたび背中を押され、
およそ真っ当な食事を摂る環境にない。
築地場内の鮨屋に押しかける客を
バカと呼んだら暴言のそしりを免れまいが
お世辞にも賢者の所業とは言えない。
築地で鮨を食べないJ.C.の気に入り店は
純和食の「かとう」、中華料理もこなす「磯野家」、
そして和洋二刀流の「小田保」である。
【本日の店舗紹介】
「小田保」
東京都中央区築地5-2-1 6号館
03-3541-9819
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