第958回
いきなりそば屋で 怒鳴られて
JR日暮里駅北口改札を出て
谷中の夕焼けだんだんに向かって歩き始めると、
すぐ右側に1軒の日本そば屋がある。
界隈で人気を集める「川むら」である。
ガラスの引き戸がなぜか自動ドアになっており、
余計なお世話だが、余計な設備投資に思えてしまう。
町が夕闇に沈む頃、晩酌に訪れた。
相方がかき南蛮を食べたいと言うのが訪問理由の1つ。
店のユニフォームを羽織ったお運びの女性が
何やら店先にかかがみ込んでいる脇をすり抜けて
入店しようとしたその瞬間、
「ああ〜っ、ちょっと待って!!」
いきなり大声で怒鳴られた。
予期せぬ出来事にわが肝はつぶれぬまでも
じゅうぶんに冷やされたのであった。
「あっ、ごめんなさい、そこ、そこっ!」
「エッ、何が、何が?」
おネエさんの指差す足元を見やれば、
何とそこには1匹の大きなヒキガエルが鎮座している。
すんでのところで踏みつぶすところだった。
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こういう状態であった
photo by J.C.Okazawa
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ヤッコさんをアップでパチリ
photo by J.C.Okazawa
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2月下旬の暖かい日とはいえ、啓蟄にはまだ10日もある。
両生類のカエルはむろん昆虫ではないが
冬ごもりしていた虫が這い出る時節と
カエルのそれとは大差あるまい。
いずれにせよ、そば屋にしてみれば招かれざる客だ。
どこからやって来たものやら
かなりの距離を這って来たに相違ない。
それが店の入口でハタと止まったままテコでも動かない。
いや、テコを使ったわけではなかろうが
接客のおネエさんもお手上げ状態。
何せ、ヒキガエルは毒を持ってる可能性がある。
まっ、ここで出会ったのも何かの縁、
姿をカメラに収め、身体をまたがせてもらい、
半分ほど席の埋まった店内へ。
ビールはクラシックラガーと一番搾り。
どちらも銘柄はキリンということになる。
他人には判らぬ因縁がそこに存在するのだろう。
以前は忌み嫌った一番搾りだったが
いつの頃からか余分な香気が消えて
美味しく飲めるようになり、
今ではラガーやクララガより好きなくらい。
好みも変われば変わるものである。
いや、これはJ.C.の好みが変わったのではなく、
一番搾りが変わったのだ。
つまみにお願いしたのは小肌酢〆、穴子天ぷら、
そして名物の青唐辛子入り玉子焼き。
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おそらく玉子3個分
photo by J.C.Okazawa
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砂糖や味醂を一切使わぬコイツが旨い。
お運びの若い娘さんが「辛さはどうしましょうか?」
と訊ねるところを「うん、大辛でお願い!」
こう応えると、彼女ニヤリと笑った。
どこか浅田真央のSP演技終了後、
キム・ヨナが見せた不敵な笑みに相通ずるものがあった。
かき南蛮には大粒のかきが5個。
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かきは軽くソテーされている
photo by J.C.Okazawa
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二分して食べ終え、カエルときには帰るが、
もとい、帰るときにはカエルが消えていた。
何でも勇気ある客が植え込みに逃がしてやったとのこと。
それにしても何を好き好んで、あるいは血迷って
町なかに這い出て来たヒキガエルであったことだろう。
【本日の店舗紹介】
「川むら」
東京都荒川区西日暮里3-2-1
03-3821-0737
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