第967回
女が消える上中里(その2)
京浜東北線全線を通じて
もっとも乗降客数の少ない上中里に来ている。
駅北側のちっぽけな商店街にあってただ1軒、
存在感を示している「花屋食堂」でランチだ。
空席が少しはあったが、あとからの来客がほぼ埋めた。
客層は常連ばかり。
かといって店の女将さんだか、従業員だかが
親しい会話を交わすこともなく、
ただ黙々と注文を取り、配膳にいそしんでいる。
心なしか客同士の会話も限定されているように感じた。
店内はとても静かなのである。
定食には並(店側も客も並とは呼ばない)と
特別の2種類があった。
並定(580円)と特定(680円)の内容を確かめたら
相方と相談するまでもなく、1つずつお願いする。
それにしてもずいぶん安い。
物価は需給で決まるものだが
この地域の需要は極めて細いのだろう。
2つの定食はかくの如し。
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並のメインはハムオムレツ
photo by J.C.Okazawa
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特のメインはまぐろ照焼き
photo by J.C.Okazawa
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ハムオムレツはわりと好き。
ニューヨーク辺りではハムレットと呼ばれたりもする。
ハム・オムレットをシェイクスピアの「ハムレット」に
掛けているわけですな。
まあ、アメリカ人にしては上出来か。
特別定食のまぐろ照焼きがどうしても照焼きには見えない。
壁のボードに照焼きとあっても
明らかに焼きモノではなく揚げモノである。
食してみると、唐揚げと竜田揚げの中間感じ。
秀逸ではないが、けっして不味いというのでもなかった。
まぐろはおそらくビンチョウマグロだろう。
それよりも閉口したのは
豆腐とわかめの味噌汁、新香の白菜漬、
さらには小鉢のふろふき大根の味噌ダレまでも
すべてがヤケにしょっぱいこと。
これには正直いって参りましたぜ。
せっかく我慢していたビールをつい頼む破目に。
「だって、しょっぱいんだから仕方がないサ。
あとで喉が渇いちまうもんなァ」
心の中で自分に言い訳をする。
生の中ジョッキはキリン一番搾り。
ベストの銘柄ではないが
最近の一番搾りは瓶でさえ味がよくなっている。
生ともなると、よりスッキリした北欧風で飲み口がよい。
肝心のごはんもイマイチだった。
大衆食堂の名店や逸品を探し当てるのは至難の業と
認識をあらたにしながら午後の散歩だ。
このときであった。
「花屋食堂」から南東に歩くこと10分弱。
「やまと食堂」を発見したのは――。
幸い、店先にメニューが貼り出されている。
ここで見入らぬJ.C.ではない。
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多彩な「やまと食堂」のメニュー
photo by J.C.Okazawa
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I shall return to Kaminakazato.
そう心に誓ったことでした。
=つづく=
【本日の店舗紹介】
「花屋食堂」
東京都北区上中里2-32-12
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