「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第970回
ワンコインで幸せの前菜

JR中野駅南口からたかだか徒歩5分足らず、
裏ぶれた飲み屋街のはずれに
小さな中華料理屋がポツリとある。
「蔡菜食堂」という和漢折衷風の店名は
蔡さんの料理を出す食堂の意味だろう。
上海料理の看板が店先に掲げられている。

ときどき陽が射しても風の冷たい厄介な日のこと。
昼過ぎから夕方にかけて西武新宿線の沿線を徘徊していた。
鷺ノ宮・都立家政・野方・沼袋の各駅周辺を
徹底的に丹念に踏査していたのだ。
馴染みの薄いエリアだけに
思わぬ佳店の発見がないとも限らない。
それだけを楽しみに歩くこと4時間、
久々の長距離散歩にもかかわらず、収穫はなかった。

鷺ノ宮の居酒屋「満月」に手打ちそば「太鼓屋」、
野方の「野方食堂」、沼袋のもつ焼き屋「ホルモン」、
いずれも今一歩で惹きつけるものが欠けている。
都立家政の「魚福」はいいサカナ屋さんだが
これは町の鮮魚店だからイートインはできないし、
第一、こんなところで刺身を買うわけにいかない。

沼袋からは西武線沿線を外れ、南下して中野に向かう。
「蔡菜食堂」に到着したのは17時過ぎだった。
席に着いて傍らのビール用冷蔵庫を一べつすると、
青島(チンタオ)の小瓶と並び、
サッポロ赤星ラガーの中瓶があるではないか。
下町から遠く離れた中野で
しかも居酒屋でも大衆酒場でもない中華料理店で
この銘柄に遭遇するなんて思いもかけない幸運である。

立て続けにコップ2杯のビールを飲み干し、
最初に注文したのは500円のおつまみセット。
これは見てのお楽しみと、内容を訊かずに頼んだ。
ただし、他店にありがちなチャーシューと
シナチクの盛合わせでないことだけは祈った。
するとこれが予想外のクリーンヒット。

多彩な前菜盛合わせ
photo by J.C.Okazawa

中央のポテトサラダはアンチョヴィ&カレー風味。
下手な洋食屋顔負けの出来映えだ。
手前左の茶色いのは辣醤(ラージャン)。
さいの目に切った焼き豚と竹の子のピリ辛和えである。
以下、時計回りに新緑サーサイ、
お麩と木耳(キクラゲ)の醤油煮、素鶏(スーチー)。
素鶏は湯葉の醤油煮で、料理名に反して鶏肉は使わない。
店のオバちゃん曰く、台湾の家庭料理だという。

ハハ〜ン、上海料理を謳っていても
おそらく店主たちのふるさとは台湾なのだろう。
“蔡”という苗字は中国大陸や朝鮮半島でも見掛けるが
台湾のほうがポピュラーではなかろうか。
右手前の地鶏の老酒蒸しはアルコール分が残り、
下戸の方は面食らうかもしれない。

写真に映っているのは全部で6品だが
ポテサラの陰にもう1つ、揚げピーナッツが隠れている。
それにしてもワンコインでこの充実ぶりには目を見張った。
独りでの訪問時には殊にありがたい。

ほかの料理には手を出さず、名物の焼きそばで締めた。

ナンプラーとアンチョヴィの焼きそば
photo by J.C.Okazawa

海老とほうれん草がふんだんに使われ、
鶏のスープが添えられる。
早くも腹十二分目に達し、今宵ははもう何も入らない。


【本日の店舗紹介】
「蔡菜食堂」
 東京都中野区中野3-35-2
 03-5385-6558

 
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2010年3月24日(水)

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