「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第972回
稲荷の暖簾に誘われて

稲荷寿司と「小僧の神様」の連環については昨日記した。
今では散歩の途中に稲荷専門店に遭遇すると、
小説が思い浮かぶだけでなく、
必ず一折、買い求めてしまうことにもなっている。
歴史を刻んだ店構えを前に
その味を確かめずに立ち去ることは到底できない。

2ヶ月ほど以前のこと。
台東区台東の「大原本店」に向かっていた。
湯葉や生麩やこんにゃくを製造販売するこの店の、
とりわけ白滝が気に入っている。
極細でコシの強い白滝は鍋物にピッタリ。
帰りに御徒町の「吉池」でサカナを調達し、
寄せちりでも作るつもりでいた。

「大原本店」への道すがら、ふと目についた店が1軒。
「都」なる、うらぶれた小料理屋風の店先に
稲荷寿司と海苔巻きの品札は出ているが
ケースの中に肝心の現物がない。
暖簾は出ているからガラス戸を引くとスーッと開いた。
中にはオバさんが一人いて、丁重に一折お願いすると、
こころよく作り始めてくれた。

一安心して椅子に腰を下ろし、出来上がりを待つ。
店内の片隅ではおでん鍋が静かに煮えていた。
はは〜ん、ここは夕刻には飲み屋になるんだ。
ここ数年、勢力を増してきたそば居酒屋ならぬ、
いなり居酒屋ですな、こりゃ。

そう思うと一杯やりたくなるのも人情。
海苔巻きを追加するついでに
「ビールを1本、いいですか?」――お伺いを立てる。
この要望も速やかに受け入れられた。
これはあらためてウラを返さなければ――。

「吉池」にて、皮はぎ・真鱈・赤いかを買い求め、
その夜は自宅で寄せちりを楽しむ。
鍋のあとの稲荷&海苔巻きはついウッカリして
カメラに収めずに胃に収めてしまった。

その2日後の夜。
飲みとものM原クンを伴い、「都」を再訪。
くだんのオバさんと、もう1人は娘さんだろうか、
女2人での切盛りであった。
最初にししゃもと出し巻き玉子をお願いしておき、
2日前に一べつしたおでんである。

意外にもここのおでんはセルフサービスだった。
自分で見繕った皿を娘さんに提示し、
彼女が伝票に値段を書き付けるシステム。

ちくわぶ・ウインナー巻き・焼き豆腐・大根
photo by J.C.Okazawa

江戸っ子の好物のちくわぶはちゃんと抑えておく。
ごぼ巻きみたいなのはウインナー巻きであった。
関東風であってもそれほど濃い目のつゆではない。
ケレン味のない素直なおでんである。

ビールから菊正の上燗に切り替えておでんをもう1皿。
今度は、すじ・ボール・つみれ・白滝。
豚肉使用の肉豆腐と野菜の天ぷらも追加した。
肉豆腐がなかなかに燗酒と同調したが
よかったのは野菜の天ぷら、いわゆる精進揚げである。

しいたけ・大葉・ピーマン・さつま芋・蓮根
photo by J.C.Okazawa

この夜は2日前にも食べている稲荷寿司は回避して
行列の絶えない小さなラーメン店、
湯島の「げんぞう」に迂回した。
近頃話題の湯島のラーメンに関しては
近々また、取り上げる機会もあることでしょう。


【本日の店舗紹介】
「都いなり寿司」
 東京都台東区台東3-9-1
 03-3835-0385

 
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2010年3月26日(金)

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