「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第976回
子どもの頃から 好きな焼きとん(その2)

そんなことで帰国のたびに
例え、宿泊ホテルが日比谷にあろうが
赤坂だろうが、駿河台だろうが
有楽町のガード下に直行していた。
水天宮、芝公園もまたしかりだ。
さすがに浅草となると、有楽町へは行かない。
代わりに墨田区・葛飾区へと、隅田川を渡った。

浅草はヘンな街で、おなじみのホッピー通りに
煮込みの旨い店はあっても焼きとんはからっきし駄目。
かつて菊水通りにあった「菊水道場」の閉店とともに
この街の焼きとんの灯は消えた。
駒形と西浅草にある「がってん」の焼きとんはイケるが
シロでもレバーでも1人前4本からで
2種類食べるのに8本を要するのではたまったものではない。

鶯谷駅南口から言問通りへの途中に
「ささのや」なる焼きとん屋がある。
煙りがモウモウと立ち上る店先に
男ばかりがいつも10人ほど群がっている。
焼き立ての串が大皿に並ぶやいなや、
あちこちから手が伸び、皿がいっぱいになる余裕がない。

以前から何度も目にしてきた光景だが
どうしても仲間に加わる気にはなれなかった。
同じ立ち呑みでも、落ち着ける店とそうでないのがあって
「ささのや」は明らかにそうでないほうだ。
皿を囲んで群がるのはさすがに抵抗があり、
つい、ハゲタカかハイエナを連想してしまう。
ただし、店内にはテーブルとカウンター席がある。
この店本来の姿は立ち呑みと思いつつも
ある日、意を決してカウンターに滑り込んだのだった。

キリンラガーでシロ・レバー・カシラをタレでいただく。
カシラには塩が合っても塩焼きは5本からの受付けで断念。
初めのレバーをパクッとやって驚いた。
子どもの頃に舌が覚えた味が鮮烈によみがえった。
今は無き仁丹塔の裏にあった、
これもまた今は無き「菊水道場」のタレにそっくり。
下世話な甘辛さが帰らぬ昔を偲ばせる。

「ささのや」は“恐れ入谷の鬼子母神”として
世に知られる真源寺に近い。
東京には雑司が谷にも鬼子母神があり、こちらは法明寺。
ともに法華経の守護神である。

ここで舞台を雑司が谷に移そう。
法明寺のそばにあるのが東京屈指の焼きとん店「高松屋」。
息子が注文を取り、それを父親が焼く。
2人ともけしておしゃべりではないのにやり取りが面白い。
ときには倅(せがれ)の差配に親父が憤慨して
喧嘩になるが、すぐに仲直りするところがエラい。
客に対して息子はストイックなくらいに折り目正しい。
どことなく大学出のインテリジェントな匂いがする。

大ぶりの焼きとんはどれも一級品。
隣りに座った小太りのオジさんがレバーのほかに
豚のほほ肉脂身使用のアブラばかりを注文している。
思わずチラリと横顔をのぞき込むと、
やっぱり肌が相当に脂ぎっていた。

あまり出掛ける機会に恵まれない雑司が谷だが
池袋からそう遠くはないので一訪あられたし。
蛇足ながら、入谷・真源寺、雑司が谷・法明寺に
市川・遠寿院を加えて、江戸三大鬼子母神と称するのだそうだ。


【本日の店舗紹介】その1
「ささのや」
 東京都台東区根岸1-3-20
 03-3872-1997

【本日の店舗紹介】その2
「高松屋」
 東京都豊島区雑司が谷3-10-7
 03-3985-5152

 
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2010年3月31日(水)

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