第978回
乞食鶏に群がる者たち(その1)
JR中央線・阿佐ヶ谷駅と西武新宿線・鷺ノ宮駅の
ほぼ中間点にある「皇蘭」は地元で人気の中華料理店。
鷺ノ宮のほうが若干近いが利用しやすいのは阿佐ヶ谷。
どちらからも中杉通りを真っ直ぐ一本だから
よほどの方向音痴でなければ迷うことはまずない。
ただし、歩くのイヤイヤ人間には厄介なロケーションだ。
以前は荻窪にあって、やはりそこも駅から遠かった。
飲食店の経営者は駅そばの立地を好むのが常なのに
「皇蘭」の店主は駅前の繁華街を極力避けたいらしい。
おかしな酔客の紛れ込みがわずらわしいのだ。
荻窪時代からこの店を贔屓にしているS木S子サンは
かれこれ10年以上に渡るワイン仲間。
かつて新宿御苑前にあった、
雪印チーズ&ワインアカデミーで机を並べた仲だ。
そのOBで結成した「煩悩の会」は今年で13年目を迎えた。
最盛期の月例会はメンバーとヴィジターを合わせ、
40人も集まる華やかさ。
それが今では2ヶ月に1度の開催に減って
出席者の平均は5〜6人とお寒い限り。
これはひとえに女性メンバーの脱落によるもので
二十代半ばだった彼女たちも今は四十路を歩み始めた。
結婚しても理解ある夫に恵まれれば、
引き続き出席が可能となるが
ヤキモチ焼きの旦那と所帯を持ったら運の尽きでもう駄目。
それでも結婚ならまだチャンスは残る。
しかし子宝に恵まれ、母親となったら完全にアウト。
育児に追われてワインなんぞ飲んでる場合ではない。
S子サンの呼びかけにより、「皇蘭」で食事会が開かれた。
店の名代は第一に乞食鶏である。
乞食鶏とは何ぞや?
そう思われる方はネットで検索してくださいまし。
当日、阿佐ヶ谷駅改札口に集結したのは総勢8人。
ところが・・・ところがである、
肝心のS子サンの姿なく、思いもよらずに
代わりに現れたのは彼女の夫のJクンであった。
不運にも病院勤務のS子サンに緊急オペが入ったのだった。
Jクンと会うのは数年ぶり、
旧交を温めるのもまたよしである。
駅からゾロゾロと歩くこと15分余り。
渇いた喉をビールで潤し、幹事役のS子さんが
注文してくれていたクラゲの前菜で宴は始まった。
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身厚のクラゲは絶好のスターター
photo by J.C.Okazawa
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コリコリである。満足である。
続いては定番の焼き餃子。
歯ざわりに秀でた薄皮とシットリ餡の対比を愛でる。
何の変哲があるでもないのに
どこか町場の中華とは一線を画すデリカシーが際立つ。
餃子の命は、その皮である。
この間にも乞食鶏はじっくり焼き上げられつつあるのだ。
お次の料理は五目海鮮炒め。
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帆立貝柱が主役の海鮮炒め
photo by J.C.Okazawa
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メインが名古屋コーチン丸1羽であるからにして
シーフードはぜひとも抑えておきたい必食アイテム。
すかさずここで紹興酒を所望した。 =つづく=
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