「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第977回
ああ! 鯨よ!

週末の銀座通り。
デパ地下めぐりをしていてあらためて思った。
鯨ベーコンの値上がり率の凄まじさを――。
子どもの頃はこのシツッコい味が
イヤでイヤでしょうがなかったのに
今ではしばしば食べたくなってしまう。

欧米豪諸国にやいのやいのと言われながらも
日本の食文化を守る姿勢を貫くことは
ずいぶんと高いものについている。
しわ寄せは結局、庶民の財布を直撃する。
G7構成国で鯨を食べるのは日本だけだから
それも仕方がないか。
外国で鯨を食べたことはないものなァ。

いや、ちょっと待て! ある、ある、二度もあるぞ!
1980年代半ば、シンガポール大丸の地下に
大阪のまぐろ仲卸商「山源」が出した鮮魚店で
一度だけ買ったことがある。
刺身で食べたのか、ステーキを焼いたのか、
はたまた竜田揚げにしたのか、
まったく記憶はないけれど、食べたことは事実である。

もう一度はノルウェーの首都オスロのレストラン。
これは塩・胡椒で味付けしただけのステーキだった。
サイドにソースが添えられていたかもしれない。
日本円で7〜800円だったから、ちょっとした贅沢だ。
あれはいつのことだったろうか・・・。

ここでハタと気がついた。
アルザスのストラスブールを訪れたのと同じ旅、
つい先日、このコラムでも取り上げた、
欧州周遊旅行(第973回参照)の折であった。
そのときのコースを再び記すと、
パリ―リスボン―セビリア―コルドバ―
グラナダ―バレンシア―バルセロナ―
カルカゾンヌ―ニーム―アルル―アヴィニョン―
リヨン―ブザンソン―ストラスブール―
ルクセンブルグ―ケルン―デュッセルドルフ―
リューベック―ストックホルム

旅程最後のリューベックとストックホルムの間が
すっぽりと抜け落ちていたのである。
リューベックをあとにして向かったのは
デンマークの首都コペンハーゲン。
その後、ユトランド半島を北上し、
アールボルグを経て、港町フレデリクスヘーヴンから
スカゲラック海峡を渡り、
ノルウェーのクリスチャンサンドに寄港した。

あとは船の旅でスタヴァンゲールからベルゲンへ。
ベルゲンから列車でオスロに入り、
最終的にストックホルムに到着した。
ずいぶん昔のこととはいえ、
おのれの記憶力の衰えに唖然である。
1週間ものスケジュールがそっくりそのまま、
欠落しているのだから救いようがない。

忘れていた記憶を呼び戻せたのは
すべて鯨ベーコンのおかげ。
ご祝儀の気持ちも込めて
真空パックのベーコン・ブロックを手に取った。
プライスシールはゆうに3千円を超えている。
「ウウッ!」――うめきがもれるのも当然であろう。
To buy, or not to buy: that is the question.
ハムレットの心境に痛いほど共感。

背後左右に目撃者がいないのをそれとなく確かめ、
もちろん店員さんの視線にも気を配りながら
鯨の肉塊をソッとケースに戻し、
そそくさと立ち去ったのでありました。
「根性ねェな!」――自分をののしるもう一人の自分の声が
ああ! 耳朶にこびりついて離れない。

 
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2010年4月2日(金)

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