「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第985
やっぱり好きな 西荻窪(その1)

ことあるごとに中央線の西荻窪の良さを
書き記すものだから
同じ沿線の高円寺や吉祥寺にお住まいの読者から
不満の声が寄せられることがある。

西荻の肩を持つわけではないが
駅前の表情に好ましい落ち着きがあって
心に響く街だと思う。
西荻以外では好みの店が散在する中野や
緑したたる阿佐ヶ谷にちょくちょく出向いている。
しかし、高円寺や吉祥寺にはなかなか足が向かない。
若者が元気な街と戯れるには少々歳を取りすぎた。

西荻の飲み処、食べ処には詳しいつもりでいた。
名だたる店は一通り訪れているのが過信の原因だ。
ところが実際にこの街は思ったより奥が深かった。
近頃、発見した店をいくつか紹介してみたい。

最初は駅南口の大衆酒場「千鳥」。
人気ラーメン店の「はつね」と同じ路地の先にある。
余談ながら「はつね」はラーメン以上にタンメンが卓抜。
月刊「めしとも」でタンメン特集のミッションを
依頼されたときには取り上げたくて仕方がなかった。
でも、ほんの数席しかない店舗を紹介してしまうと、
お店にも常連にも迷惑を掛けること必至、
無分別な行為は思いとどまるしかなかった。

「千鳥」はいかにも下町にありそうな酒場で
居酒屋の範疇に括ってしまうには惜しい。
チェーン店をはじめ、東京に居酒屋は星の数ほどあっても
真っ当な大衆酒場はそうあるものではない。
大塚「江戸一」と住吉「山城屋酒場」を
足して2で割ったような雰囲気が醸され、
品格と庶民性がほどよく同居している景色がここにある。

下町酒場で定番のホッピーは白と黒が揃っているし、
酎ハイやサワーにも事欠かない。
煮込みを頼んだら、すかさずお通しが煮込みだと
ささやいたオネエさんの気配りも下町の人情を偲ばせる。
煮込みには豚のテッポウにこんにゃくと大根が入っていた。

生モノをいくつかお願いする。
とり貝刺しはイケナかったが
小肌と蝦蛄(しゃこ)にはうなずいた。
寒い夜のことで、ついついおでんに食指が動き、
はんぺんとスジをつまむ。
北口と南口にそれぞれ1軒ある「戎(えびす)」は
西荻住民の間で人気の店ながら
ときとして猥雑に過ぎるきらいが否めない。
その点「千鳥」はこの街の穏やかな空気になじんでいる。

北口の「西荻スイッチ」はスペインバル風のワインバーだ。
カウンター主体の店で立ち飲みと腰掛けが半々感じ。
女性スタッフの客あしらいがサラッとしていて好感度が高い。
スペイン名物のガンバス・アル・アヒーヨは
海老のガーリックオイル煮だが
そのアレンジ版を牡蠣で作ってくれ、極めて旨し。

銀座界隈には値段と気ぐらいが高いばかりで
質実感は皆無のバルが乱立しており、
不愉快な思いをさせられることたびたび。
思いもかけずに「西荻スイッチ」のような店に遭遇すると
不満を抱えていた反動か、頬は緩み、心は和むものである。

             =つづく=


【本日の店舗紹介】その1
「千鳥」
 東京都杉並区西荻南3-10-2
 03-3332-7111

【本日の店舗紹介】その2
「西荻スイッチ」
 東京都杉並区西荻北3-22-17
 03-6931-6209

 
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2010年4月14日(水)

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