「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第998回
「挽歌」を観たあとで

京橋フィルムセンターで原田康子原作の「挽歌」を観た。
特集「映画の中の日本文学」を構成する1本である。
久我美子を主役に据えた1957年製作の映画だ。
原作は前年の暮れに出版され、ベストセラーになっている。

舞台は霧深き釧路。
映画では釧路港の霧笛をたびたび聞くことができる。
ヒロインの怜子役は長い髪でやせっぽちが絶対条件。
それをクリアしても久我美子のイメージではないと思う。
相手役の森雅之もなんだかなァ。
彼のハマリ役はやはり「羅生門」の金沢武弘だから
あの眼差しが脳裏に灼きついてしまって
ほかの映画ではことごとく、その印象がジャマをする。
それにしても森雅之は暗い俳優だ。
まるで情死した実父、
有島武郎の恨みが乗り移っているかのよう。

映画自体も暗い。
北の果て釧路で不倫や裏切りや自死が
繰り返されてはそれもやむを得まい。
フランソワーズ・サガンの「悲しみよこんにちは」や
「ある微笑」を連想させる(原田は明らかに意識している)、
三角関係・四角関係が描かれるのだが
サガンの映画化作品のようなアンニュイの中に潜む、
けだるい明るさがまったく見られない。
陽光あふれる南仏と霧にむせぶ道東のイメージの違いが
そのままスクリーンに反映されている。

盛んに挿入される音楽にしても「トロイカ」・「ともしび」・
「黒い瞳」と、ロシア民謡のオンパレード。
当時は歌声喫茶の興隆期だったことも大きく影響している。
原作者・原田康子のことを調べていて
彼女が昨年10月に他界していたことを初めて知った。
そして趣味が競馬と将棋で、ともに“駒”がらみだったことも。

終映後、日本橋を経由して神田錦町まで歩く。
映像の世界から現実に舞い戻り、“煮込み”の取材だ。
山形県・河北町の名物、肉そばを提供する都内唯一の店、
「河北や」が当夜のターゲット。
過去に2度ほど訪れている。

山形県は東&北日本にある都道県でただ1県、
豚肉よりも牛肉の消費量が多い県だから
お国自慢の芋煮会に使用されるのは牛肉だ。
牛肉と里芋の芋煮は関東でポピュラーな
豚肉とじゃが芋の肉じゃがよりも食味がよいように思う。
まあ、すきずきではあるけれど・・・。

そんな経緯から初訪問時、
「河北や」の肉そばは牛肉使用と早合点していた。
浅草「角萬」の名物、肉南蛮は豚肉だから
豚肉の可能性までは想定内。
それがまさかのことに鶏肉だったとは――。

初回に食べた冷肉そばは滋味いっぱいで大満足。
今回は生ビールと黒ホッピーで
閻魔牛すじ煮込みと塩かぶりカツをやった。
閻魔というのは唐辛子の激辛を意味し、
かぶりは豚ロースにかぶさるように付いている部位。
かくしてこの店の鶏・牛・豚をすべて制覇したことになる。

【本日の店舗紹介】
「河北や」
 東京都千代田区神田錦町1-2
 03-3294-8212

 
←前回記事へ

2010年5月3日(月)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ