「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第999回
「花影」を観たあとで

再び京橋フィルムセンターにて映画鑑賞。
この日は大岡昇平原作の「花影(かえい)」であった。
川島雄三がメガホンを取り、
実在した銀座のクラブのチーママ、
坂本睦子をモデルにした1961年の作品である。
その都度、現れる男たちをピュアに愛したのだから
男性遍歴のひとことで片付けてしまっては可哀想な女性だ。
ただ、原作も映画も睦子の生活を赤裸々に描いている。

彼女と情を通じた文壇人はオールスターキャストさながら。
連中に文士劇でもやらせれば、
「忠臣蔵」の主だった配役はたちどころに埋まるほど。
もちろん原作者の大岡昇平もその一人。
ほかには文藝春秋創始者の菊池寛。
直木賞に名を残す直木三十五、コイツがけっこう悪い。
日本を代表する知識人の小林秀雄、これも意外にスケベ。
無頼派作家の中でひときわ才能に恵まれた坂口安吾。
あとは・・・いや、もうやめておこう。
だのに、彼女はシアワセになれなかった。
社会的に功を遂げ名を上げても
オトコとしてはロクな人間がいなかったということだろう。

昭和33年4月5日は、対国鉄の開幕戦で
長嶋が金田に4打席連続三振を喫した日。
その10日後の4月15日。
坂本睦子が新宿百人町のアパート自室で自殺を遂げる。
遺書に恨みつらみは綴られていないが
彼女の自死は不甲斐ない男たちへの、
ある意味、自分をおとしめた男たちへの、
言葉無きレジスタンスだったように思えてならない。

映画で睦子を演じたのは池内淳子。
序盤は違和感が拭えなかったものの、
映画が進むうちにだんだんシックリしてきた。
池内の演技力、川島の演出力の賜物というほかはない。
坂本睦子にはずっと関心を持っていたから
「花影」はぜひ観たかった映画であった。

その夜はニューヨーク時代からの旧友と夕食。
一時帰国中のS二クンと待合わせたのは
“実用洋食”を自称する江東区・白河の「七福」。

深川の町に夕闇が迫る
photo by J.C.Okazawa

アンクルトリスみたいにビヤ樽体型のS二クンの
食欲は半端でないどころか、むしろ異常だ。
通常の3〜4人前は胃の腑に収めてしまう。
とてもじゃないが、鮨屋なんかに連れては行けない。

最初に注文したのはミックスフライと七福ランチの(上)。

海老・いか・帆立のミックスフライ
photo by J.C.Okazawa


七福ランチは夜もOK。
photo by J.C.Okazawa


七福の(上)はハンバーグ・ハム・海老フライ・鳥唐揚げ。
“実用”のフレーズがピッタリの洋食は
ほのぼのとした昭和30年代の味がする。
ニューヨークではなかなか食べられない、
東京下町の独自性にあふれていた。

結局、写真のような盛合わせプレートを計4枚完食。
ほかにポークソテーのこれも分厚い(上)、
五目かた焼きそば、焼き餃子、新香盛合わせ、
そのほとんどがヤツの胃袋にすっ飛んで行った。
合いの手にはビールや酎ハイをガブガブと、
こちらは4打席連続三振を食らった気分である。


【本日の店舗紹介】
「七福」
 江東区白河3-9-13
 03-3641-9312

 
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2010年5月4日(火)

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