「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1035回
あの「神田鶴八」は今(その1)

もうずいぶん昔のことになるがNHKの番組に
鮨職人を主役に据えたドラマがあった。
タイトルは「イキのいい奴」で主演は小林薫である。

これを観たのはニューヨーク赴任時代。
田村正和の「ニューヨーク恋物語」と同時期だから
おそらく1988〜9年ではなかったろうか。
調べてみると、日本では1987年1〜3月に
水曜ドラマとして放映されており、
1年半ほど遅れてビデオ屋から借りたものを観たわけだ。

原作は神保町の江戸前鮨店「神田鶴八」の当時の親方、
師岡幸夫氏が書いた「神田鶴八鮨ばなし」。
「神田鶴八」は1980年代の半ばに
何度か訪れていたから
親方の容貌や店内の雰囲気を思い出しつつ観たが
小林薫もセットの鮨屋も似ても似つかぬもので
何やら拍子抜けした記憶がある。

もっともドラマ自体は楽しめた。
今は無き若山富三郎と三木のり平の両御大が
元気な姿を見せているのが何よりもうれしかった。
ほかには花沢徳衛・北村和夫・地井武男が脇を固め、
ゲストの江戸屋猫八・東八郎・ガッツ石松が
花を添えていたのが懐かしい。

帰国後、「神田鶴八」を再訪したのは2003年6月。
現在の親方に代替わりとなって
それほど月日の経たぬうちであった。
もともと先代の弟子だった当代は
その朴訥さ、不器用さを逆に買われて抜擢されたと聞いた。
そう、職人の場合はチャラチャラしたのより、
ノンビリしてたほうがよい場合がままあるのだ。

以来なぜかトンとごぶさたしてしまい、
訪れたのは7年ぶりのこと。
前回は姿の見えなかった女将さんが
愛想よく立ち働いている。
あの親方が所帯を持ったわけである。
わさびをおろすのまで女将さんの役目で
それも小まめに丁寧にすりおろしている。
つけ台でくつろぐ客は近隣で働く常連ばかりの様子だ。

蒸し暑い夕暮れのことだから
冷たいビールがひときわ旨い。
つまみは最初にエンガワ付きの真子がれい。
これがドンと豪快に来た。
朝締めだろうか、歯に当たるテクスチャーがドンピシャリ。
名代の塩蒸しあわびは昔も今も変わらぬ味。
隣り町、九段下の「寿司政」が〆小肌なら
「神田鶴八」は蒸しあわびで持っている。

J.C.は鮨屋に来ると、
つまみに生のサカナをあまりいただかない。
したがって築地の魚河岸で
鮨屋の暖簾をくぐることはめったにない。
なぜならあそこには生ザカナしか居ないからである。
それでは鮨屋に行った意味がない。
刺身用のサクを買って来て自分でさばけばそれで済む。

            =つづく=

 
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2010年6月23日(水)

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