「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1041回
無性にビールが飲みたくなって(その1)

そのとき、JR神田駅南口にいた。
梅雨のあいまに陽が射した昼下がり。
喉が渇いて無性にビールが飲みたくなっていた。
こういうときに東京の街は不便である。
ロンドンやニューヨーク、
パリやローマでも、簡単に飲めるのに。

東京の場合は厄介なことに
とんかつ屋やラーメン屋に入って
「ビール1本!」というわけにはいかない。
あるとき、牛丼の「吉野家」でビールだけ注文したら
アルバイトの店員に怪訝(けげん)な顔をされた。
タチの悪い酔っぱらいの迷い込みと思われたらしい。

以来、といってもめったにお世話にならないが
あまり食べたくもない牛皿を頼み、
しかもご丁寧に薄紅色の生姜を皿の脇にはべらせて
ビールのアテにしたりもする。
甘辛い牛肉をつまんでいるうちに
すき焼きがまぶたに浮かんできてしまい、
生玉子を追加することも――。
そうしてボンヤリと
「バカだな、俺って・・・」――胸の中でつぶやくのである。
でも、そういうゆるい時間を好ましく思う自分がいて
一日の疲れがスッと抜け、シアワセな気分にもなる。
こんなときではないかな、人生って悪くない、
そう実感するのは――。

日本は“自販機天国”だから
酒屋の店先でも缶ビールは買える。
酒類を販売するコンビニも街中にあふれている。
ビールの購入に関してはこんなに便利な国はない。
ただ、その場での立ち飲みには抵抗がありすぎる。
折悪しくそんな姿を部下の女の子に見られたら
あとで何を言われるか、判ったものではない。
それに缶ビールを缶から直接飲んでも
旨くも何ともないしネ。

むかし、むかし、
真夏の炎天下に当時のカノジョと長距離散歩を試みた。
必然的に喉が渇いてビールが飲みたくなるからと
プラスチックのコップを携帯していた。
まだ携帯電話のない頃のハナシである。
ビールは容器に移して飲んで初めておいしさを味わえる。
途中、自販機で買った缶ビールを紙コップならぬ、
プラコップに注いで飲みながら歩き始めたら
「お願いだからそれは止めて」――真顔で哀願された。

言われてビルのガラスに映る姿を眺めてみると、
やはりどこかヘンである。
何か間が抜けているのである。
以来、プラコップはなるべく自重するようにしている。

そうそう、梅雨のあいまの神田駅南口、南口。
明るい陽射しの中でビールが飲みたい自分であった。
普段はめったに荷物を持たないくせに
その日は数葉の書類を手にしていた。
すぐにこなすべき若干のペーパーワークを
抱えていたのである。

取りあえず、ビールを置いている喫茶店にでも・・・。
そう考えたときにピカッとひらめいた。

            =つづく=

 
←前回記事へ

2010年7月1日(木)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ