「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1045回
横浜の狸小路に出没(その1)

横浜が好きである。
このことは当コラムでも何度か書いた。
でも、J.C.のいう横浜はJR横浜駅界隈ではない。
わが青春の思い出詰まった大桟橋から
山下公園にかけての一帯のことだ。
観光客押し寄せる中華街や元町には興味がなく、
むしろ桜木町に近い野毛の町がお気に入り。
そんな調子なので横浜に来ると
横浜駅を通り越し、桜木町・関内まで足を伸ばす。
といいつつも、たまには途中下車を試みる気になった。

乗降客でごった返す横浜駅構内から西口を出てすぐ、
知る人ぞ知る狸小路なる裏町がある。
雰囲気的には深川は門前仲町の辰巳新道、
あるいはかつて池袋東口にあった人世横丁に似ている。
ところがこの狸小路、ロケーションの利便性からか
訪れる客があとを絶たないものだから
シャアシャアとあざとい商売にいそしむ店も少なくない。
狸のみならず、狐まで巣食っているかのようだ。
これではJ.C.の足が遠のくのもまた致し方ナシ。

渋谷でのんきなOLをしている旧知のK子嬢を
久々に呼び出して狸小路に分け入った。
狸を伴って狸小路の散策に及んだわけだ。
言わば、故藤田まことサンと差し向かいで
桜鍋を突っつくようなものですな。

目当ての1軒目は豚の珍味を専門に扱う「味珍」である。
“味”の字を“まい”と呼んで、屋号は「まいちん」。
オトコの子なら誰しも愛着を覚えてしまう“粋”な店名だ。
名声は耳に届いていたものの、訪問するのは初めてのこと。
ゲテモノ好きの狸、もとい、K子嬢もウキウキのご様子。

ガラス越しに店内をのぞくと、
「うわァ、イッパイやんけ」――K子、早くも嘆き節。
実はこの「味珍」、狭い小路をはさんで
本店・新店が向かい合っている。
しかもそれぞれに2階があるから望みを棄てるのはまだ早い。

若干、客が少なめに見えた本店のドアを引くと
カウンターの大将が明るい声で「2階へどうぞ!」。
嘆きのK子は思わずニッコリ、大将に秋波を送らんばかり。
やれやれと階段を上り始めたが
この階段の急なこと、急なこと。
ときは江戸初期、寛永の時代。
四国・丸亀藩の馬術指南役、間垣平九郎が
愛馬とともに駆け上がった愛宕神社の石段さながら。
こういうのって、下りはもっと危険なんだよナ。
およそ飲食店とは思えぬ真っ逆さまの急階段であった。

グラスを合わせたキリンラガーを一気に飲み干す。
この瞬間のためだけに、今日も一日働いてきたのだ。
メニューはザッと見、およそ12品。
そのうち6品が豚モノで
頭・舌・足・耳・尾・胃のラインナップ。
ロースはもとより、バラやレバーなど、
がっつり食える部位は見当たらんじゃないですか。

最初に注文した2品がこちら。

中国風白菜漬の辣白菜(ラーパーツァイ)
photo by J.C.Okazawa


豚の頭は焼きとん屋でいうカシラ
photo by J.C.Okazawa

2人並んでパキッと割り箸を割った。

          =つづく=

 
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2010年7月7日(水)

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