「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1049回
西新宿の老舗ビストロ(その1)

新宿は積極的には出没しない街である。
殊にゴチャゴチャしていて騒々しい歌舞伎町界隈と
高層ビル立ち並ぶ西新宿方面は――。
あちらの趣味はまったくないので2丁目とも無縁。
かろうじて3丁目だけはたまに訪れる。
中学・高校時代、このエリアに2軒あった名画座に
足繁く通ったため、愛着が湧いているからだ。

大衆的な酒場や居酒屋を愛する身ならば、
思い出横丁やゴールデン街に足が向きそうなものだが
不思議とそうでもない。
何となく肌が合わない感じがする。

新宿駅西口と副都心のビル街の間に
さして広くもない遊興スペースが残されている。
その一角で「ル・クープシュー」というビストロが
人気を集めていることは認識していた。
西新宿にビストロって、ずいぶん場違いな印象だ。

ふとしたキッカケから旧知の友人と訪れることになった。
電話で予約を入れると、手際のよい応対ぶりで
さすがに老舗だけのことはある。
これなら料理にもそれなりの期待が生まれるというもの。

当日はめったに行かない思い出横丁にまず立ち寄った。
その心はビールを飲むため以外の何物でもない。
レストランにもビールはあるけれど、
気の染まない銘柄で肩透かしを食らうのがイヤだから
J.C.にはよくある行動パターンなのである。

もつ煮込みで有名な「第二宝来家」の2階に上がる。
ビストロでの晩メシの前に煮込みもないものだが
ビールだけでは店側が承知しない。
お通しのほかにせめて1品注文するのは礼儀だ。

サッポロ赤星の大瓶を空けて、いざビストロへ。
ちょいと隠れ家風の店内には
いかにも新宿的な匂いが立ち込めている。
何が新宿的かと問われると、答えに窮してしまうが
ビストロなのにゴールデン街のような、
けだるい空気が流れていると表現すればいいだろうか。
三島由紀夫や黒澤明が愛好した3丁目「どん底」と
同質の雰囲気も備えている。

席はテーブルではなく、カウンターをお願いした。

コンパクトなオープンキッチンカウンター
photo by J.C.Okazawa

厨房内には男女合わせて3人の料理人。
ほほう、「隠し砦の三悪人」ならぬ、
「隠れ家キッチンの三料理人」ではないか!
奥にいる若い女性シェフの横顔が初々しい。

ジヴリー・シャンベルタンを抜いて貰い、
自家製バターを塗ったバゲットを一口。
マーガリンのようなケレン味あふれる味わいは
これなら市販のバターのほうがよほどマシだ。

エスカルゴに見立てたムール貝のブルゴーニュ風も
パン粉ばかりが多くて閉口気味。
「こいつはハズしちまったぜ!」――心の中で舌打ち。
そこにほのかな期待を掛けたセウタが運ばれた。

セウタは魚介類の煮込み
photo by J.C.Okazawa

立ち上がる香気に食欲を誘われて気を取り直した

              =つづく=

 
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2010年7月13日(火)

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