第1056回
幻の銀宝(ギンポ)は運命の天種
江戸前天ぷらにこだわる方なら銀宝なるサカナを
1度や2度は口にしたことがあるに違いない。
毎年5月になると銀宝が食べたくてソワソワする人は
8月に新子を求めて鮨屋の暖簾をくぐる人に似ている。
当コラムでは何度も珍魚を紹介してきたが
銀宝もまた珍魚の仲間といえるだろう。
見た目は少々グロテスクにつき、ドジョウのお化け、
ウツボの赤ん坊なんて表現する向きもあろう。
今回も遭遇したのは珍魚のデパート「吉池」。
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つぶらな瞳が愛らしい
photo by J.C.Okazawa
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確か5尾で300円
photo by J.C.Okazawa
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丸のままの状態で鮮魚店に並んでいるのを
見掛けるのはきわめてまれである。
ここであったが百年目、
買わなきゃ2度と会えないかもしれない。
後先のことも考えずに
「オジさん、これ1皿!」
「おっ、ギンポね? あいよ!」と相成りました。
あれは5年前の5月のこと。
たかだか10日ほどの間に
銀宝の天ぷらを3度も味わう幸運に恵まれた。
大井町のそば屋「権正」、入谷の天ぷら屋「からくさ」、
そして目黒は油面にあった今はなきそばの名店「巴仙」だ。
さて帰宅後、5尾の銀チャンを前に思案投げ首。
いったいどうおろしたものだろう。
結局は薬局で、助っ人を頼みました。
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2尾を三枚おろしにしてもらう
photo by J.C.Okazawa
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さすがプロの料理人、目打ちもせずにきれいに捌いた。
料理はJ.C.の出番である。
常識的には天ぷらしかない。
しかないが、家庭で、しかも男手一つで天ぷらは厄介だ。
手間もかかるし、余った油の処理にも困る。
ヘタに廃棄したら環境破壊に手を染めることにもなる。
ここで思い出したのが、かれこれ半世紀前の実体験。
大衆ふぐ屋の入谷「魚直」で食べた銀宝の煮付けのことだ。
ポンと膝を打って3尾は生姜を利かせ、
丸ごとそのまま甘辛く煮付けた。
捌いてもらった3枚おろしのほうは
3枚目の写真にように醤油&日本酒の同割りに漬け込む。
そうしておいて1尾(半身2枚)は網焼き、
もう1尾はバタ焼きにしてみた。
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穴子にそっくりの網焼き
photo by J.C.Okazawa
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ムニエル風のバタ焼き
photo by J.C.Okazawa
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はたして網焼きのほうは穴子よりも身が締まってプリプリ。
レモンを搾ったバタ焼きもフランス風に仕上がった。
どうにかこうにか5尾の銀宝を
煮付け・網焼き・バタ焼きと
変化をつけながら料ってみたものの、
やはりこのサカナは
天ぷらになる運命を背負ったものと再認識。
とは言え、天ぷら以外も大いに試す価値あり。
腕に覚えのある方ならば、
出会ったらぜひ挑戦してみてほしい。
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