第1080回
のんびり ゆっくり 夏休み(その3)
翌朝は早めに起き、朝食抜きで寺めぐりに出た。
京都に行ってもめったに寺院を訪れることがないが
奈良の場合はそうしないと身の置きどころを見つけにくい。
振り返れば実に久々の奈良である。
照準を合わせたつもりはなくとも
今年はたまたま平城遷都1300年に当たる。
広大な平城宮跡は近鉄の車窓から眺めるにとどめた。
行く先は薬師寺で中学3年の修学旅行以来である。
東塔を見上げ、深い感慨に襲われた。
はるか昔にとてつもない塔を創ったもので
これに比べりゃスカイツリーなんざ、
いたずらに背い高ノッポなだけではないのか?
薬師寺から10分ほど歩いて唐招提寺に回る。
鑑真ゆかりの寺云々もさることながら
松本清張の推理小説、「球形の荒野」が思い出される。
作品としての評価はともかく、
冒頭に唐招提寺の芳名帳を持ってきたのは
サスペンスとして一級品の滑り出しだった。
松竹が映画化しているが、これは明らかに不デキ。
京都に到着したのは正午過ぎ。
朝早く京都に着いた観光客が
朝食のお世話になるという「大弥食堂」へ直行した。
かねてから行ってみたかった店である。
店内は今まさに昼めしどきで観光客の姿は見えず、
地元の勤め人でごった返している。
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いかにも京都の大衆食堂
photo by J.C.Okazawa
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席を占めるサラリーマンはおっさんが多く、
OLのほうは逆にお姉さんが目立つ。
昼に飲む客は少ないのだろう、
冷蔵庫にはキリンとアサヒの大瓶がそれぞれ2本ずつ。
大瓶の500円は東京の大衆酒場も顔色ナシだ。
飲まない代わりに喫煙者は目立ち、
しかも食事を終えてすぐに席を立つ客が少ない。
この立て込み具合に東京人なら即座に引き上げるところだ。
同じ“京”でも東と西ではこの変わり様である。
「大弥食堂」の名物はしっぽくうどん(380円)ながら
連日の暑さ続きでこの日もモロに猛暑日。
熱いつゆはとてもとても、なのである。
そこで選んだのが天丼(480円)だった。
値段が値段だけに海老は望み薄、
じゃあ天ぷらの種はいったい何なんだ?
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どんぶりに海老の尻っぽが1本
photo by J.C.Okazawa
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ほう、小さいながらもちゃあんと海老じゃないか。
だがその直後、箸をつけたJ.C.の顔も身体も硬直した。
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小指の先ほどの海老の胴体
photo by J.C.Okazawa
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京都で天丼の記憶はないが
これまでの生涯に200杯や300杯の天丼は食べてきた。
言っちゃあ悪いが、人生最悪の天丼がこれだ。
“小指の先”以外は煮崩れたコロモだけが
どんぶりを覆いつくしていたのである。
マンマ・ミーア!
さすがにこりゃ食えんと、しっぽくうどんに緊急避難。
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名物のしっぽくうどん
photo by J.C.Okazawa
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避難したうどんのほうが多少マシではあった。
とは言っても過剰な塩分と化調にこれまた持て余し気味。
意外なことに京都人は濃い味を好むのかもしれない。
食堂の隣りは「喫茶だいや」、その向かいは「旅館だいや」。
多角経営か独立採算かは存ぜぬが
京都では知名度の高い「だいやグループ」ではある。
食堂の繁盛ぶりから推測して
地元の人気を集めていることだけは確か。
けれども、あの天丼は仏様もお許しになるまい。
=つづく=
【本日の店舗紹介】
「大弥食堂」
京都府京都市下京区下数珠屋通東洞院東入南側
075-371-1194
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