第1086回
思いもかけぬ“わかれ”との出会い
ただいま発売中の「めしとも」では
東京ナンバーワンの角打ち酒屋として
太鼓判を捺した「内田屋 西山福之助商店」。
取材後もときどき訪れている。
「内田屋」で一杯やり、ほろ酔い気分でオモテに出た夕まぐれ。
何気なしに東の空を見上げると
その空の下を京浜東北線の青い車両が走り抜けて行った。
高架の向こう側は芝浦という町である。
芝浦には長らくご無沙汰の「キクヤ レストラン」があるはず。
「内田屋」と「キクヤ」、A地点とB地点の意外な近さに
早くもせっかちな足は「キクヤ」へその一歩を踏み出していた。
名物の肉天にしようか、野菜炒めにしてみるか。
ロースカツもいいし、ポークソテーだって悪くない。
昼食が軽かったので普段は夜に食べないライスものでもいいや、
そんな気にもなってくる。
もう1つの名物、オムコロもあったなあ。
これはオムライス+コロッケのこと。
歩きながらさまざまな料理が浮かんでは消えてゆく。
「キクヤ」の近所に輸入車販売の「ヤナセ」があり、
二代目社長の故・梁瀬次郎さんもよく顔を見せていた。
コロッケが大のお気に入りだったという。
梁瀬さんといえば、もう何十年も前、
ホテルでアルバイトをしていたときに
彼のテーブルを配膳したことがある。
物腰の柔らかいダンディな紳士で
毛並みのよさがそこはかとなくにじみ出ていた。
近年、しばしば話題となり、もてはやされる白洲次郎に
タイプは異なっても匹敵するほどのスマートさだった。
カッコいい2人の共通点は何よりも“外車”であろう。
2年ほど前に建て替えられた「キクヤ」へは初めての訪問。
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モダンに生まれ変わったファサード
photo by J.C.Okazawa
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外見はかなりオサレになった。
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内装はちょっとシラけた感じ
photo by J.C.Okazawa
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店内の雰囲気は改築前のほうがずっと好き。
往時、漂うレトロ感は街の古い洋食屋そのものだった。
卓上のメニューと壁に貼られた品書きを見比べながら
気持ちの上では肉天に大いに傾いていた。
ところが「人気おつまみメニュー」の欄に
ワカレ 900 yen の文字を発見して?? となった。
これはいったい何だろう。
もしや・・・・あわててメインメニューに視線を落とすと
ありました、ありました、
カツ丼 1000 yen 親子丼 1000 yen
カツ丼・親子丼はワカレに出来ます
♪ ビックリ仰天有頂天、コロリとイカれたよ、
マイ ルイジアナ・ママ フロム ニューオリンズ ♪
となった次第。
(♪部分が判らない方は“飯田久彦”をググッてください)
日比谷に「いわさき」という大衆食堂がある。
ここの名物がカツ丼のアタマとごはんを別盛りにしたワカレ。
「いわさき」以外でメニューにワカレを見るのは初めてのこと。
それも以前の「キクヤ」にはなかったはずだ。
当然、頼んだサ。
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付属のお新香がうれしいワカレ
photo by J.C.Okazawa
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肝心のお味だが、これは断然「いわさき」に軍配。
戦前から変わらぬという、あの割下の独特の風味。
どうしたらあの味が出るのかいくら考えても判らん。
初めて食べた1975年、
街には「シクラメンのかほり」が流れておりました。
ジュリーの「時の過ぎゆくままに」も・・・。
【本日の店舗紹介】その1
「キクヤ レストラン」
東京都港区 芝浦1-4-13
03-3451-1336
【本日の店舗紹介】その2
「いわさき」
東京都千代田区有楽町1-6-8
03-3591-4740
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