「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1085回
また天丼にたたられて

昨日に引き続いて週刊現代のミッション、
「天ぷらそば・食べ歩き」にからんだハナシ。
その日は銀座勤めの友人と
泰明小学校近くの「泰明庵」にやって来ていた。
銀座らしからぬくだけた雰囲気のそば屋は好んで訪れている。
似たタイプの「よし田」よりも
庶民度が高いために落ち着くせいかもしれない。

昼夜を問わずに混む当店を利用するのは夜が多い。
良質な刺盛り1人前が千円札1枚で食べられ、
それをつまみの晩酌が楽しい。
狭苦しいのと騒がしいのとが欠点ながら
なあに、何度か通うちに慣れてしまうものだ。

われわれの卓には野菜天そばと魚天丼が運ばれている。

ボリューム感あふれる野菜天そば
photo by J.C.Okazawa


きすだけが確認できる魚天丼
photo by J.C.Okazawa

野菜天そばの詳細は近々発売の週刊現代にゆずるとして
今日は魚天丼のことである。
この天丼にまた、たたられちゃったのである。
“また”というのはつい先日も京都「大弥食堂」にて
わが人生最悪の天丼に出くわしたばかりだからだ
第1080回参照)。

ご覧のように目視可能なサカナはその尻っぽからキスだけ。
あとはかろうじて野菜のかぼちゃと
しし唐(実際は丸まった絹さやだった)のみだ。
きすの下敷きに重なっているサカナはよく判らない。

で、きすの下から引きずり出してみました。
このときJ.C.の脳裏をよぎったのは赤穂浪士に
炭小屋から引きずり出された吉良上野介の姿である。
これは前夜、DVDで「大忠臣蔵」を観た副作用。
それは置いといて3枚も隠れていた魚天は
横からのぞこうが、斜めから眺めようが、皆目見当がつかない。
尻っぽのない切り身は不審を極めている。
土台、正当な江戸前天丼にサカナの切り身はご法度のはず、
いよいよ身元不明にて得体の知れないヤツである。
江戸時代なら無宿人別帳に記載されてしかるべきだ。

百聞は一見にしかず。
さらに百見は一食にしかず。
箸でつまみ上げ、端っこをかじってみた。
ムムッ、締まりというより、ずいぶん堅いぞこれは。
ひからびた真鯛のようでもあるし、
いや待てよ、何だこの特有の臭みは!
あざとい非優良店がときとして使う、
北海のオヒョウや深海のホキの類いではない。
むしろオヒョウやホキのほうが食味はずっとよい。
とにかく美味しくない、いや、不味い。
「泰明庵」ではどちらも千円の
刺盛りがベストで魚天丼がワーストと判明した。

立て混むランチタイムに衆目の前でサカナの身元を
接客係に訊ねるわけにもいかず、翌日電話を入れた。
受話器の向こうの、おそらく女将さん曰く、
「きすのほかはコチかアイナメか
 ヘダイかメイチダイなんですがねェ。
 お刺身用のおサカナを使ってるんです、ハイ」――
そうか、そうであったのか!
J.C.、思わず膝ポンの図。
あの臭みはメイチダイに相違ない。
悪いことではないのだが前日の刺身用が
翌日には天ぷら用へと身を持ち崩して――。

それにしても前夜はベストの立役者が
今日はワーストのA級戦犯にその姿を激変させている。
これでは昨夜の姫君が、今宵は夜鷹と同じこと。
 ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず
頭の中で諸行無常の鐘が鳴っている。

【本日の店舗紹介】
「泰明庵」
 東京都中央区銀座6-3-14
 03-3571-0840

 
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2010年9月1日(水)

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