「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1087回
阿部定事件の現場を歩く

二・二六事件が勃発したのは1936年2月26日。
青年将校が率いる決起部隊も3日後には鎮圧され、
東京の街に平穏な空気が戻りつつあった5月中旬。
阿部定事件が荒川区・尾久の待合「満左喜」で起こった。
猟奇的な事件をもとに
大島渚が撮った映画が「愛のコリーダ」だ。

藤竜也と松田英子の本番シーンが
一大センセーションを巻き起こすことになる。
日本で撮影され、フランスで編集されたフィルムは
厳しい検閲のためにズタズタ。
日本で公開されたときには
面白くも何ともない映画になっていた。
バカバカしい。

ニューヨークのジャパン・ソサエティで
大島監督自身とともにノーカット版を観たことがある。
終映後、カクテルパーティーにおける監督との会話。
「監督が生きている間に日本でノーカット版が
上映される可能性はありますかね?」
「いや、それはないね、ない、ない」
「主演女優の松田英子さんは引退なさったんですか?」
「うん、2〜3年前に電車の中でバッタリ会ってね。
 それっきりだが、元気そうだったですよ、
 普通の人になってたね」

理解に苦しむ作品が少なくないものの、
「青春残酷物語」は桑野みゆきのおかげもあって大好き。
ロンドンのヒースロー空港で倒れて以来、
ずっと体調を崩されており、今もリハビリ中だと聞く。
何とか復活してほしい方の一人である。

74年前に阿部定事件のあった尾久の町を歩いた。
荒川区という土地柄は23区の中で
もっとも寂れ果てているように見受ける。
日本が経験してきた昭和30年代の貧しさが
スッポリここだけに取り残されているように見えるのだ。

オグトピアと名づけられた商店街
photo by J.C.Okazawa

ねっ? 何だかうら寂しいでしょう?
歩行者の姿はほとんど見えず、
自転車が何台か行き交っているだけ。
本来、華やかであるべき万国旗が逆にわびしさを誘う。

あちこち歩き回って尾久八幡神社の真向かいに
「朝日屋」というそば屋を発見した。
通りから玄関まで細い通路が続いている。
これによって興味をそそられる者もいようが
ためらって尻込みする人もいよう。
J.C.は前者であった。
時刻は17時半、店内には誰もいない。
卓上にベルが置いてあり、
これを川っぺりのアイスキャンディー屋のごとくに鳴らして
自分の到来を奥に居ると思われる従業員に報せるのだろう。
鳴らすまでもなく、奥からお兄さんが現れ、
500円のもりそばをお願いする。

磁器の皿に盛られたもりそば
photo by J.C.Okazawa

薬味は、ねぎ・しそ・混ぜわさび。
そばは香りが薄いものの、モチモチとした食感がよい。
町場のそば屋の常か、甘すぎるつゆがちょいと残念。
そこそこおいしくいただき、隣り町の小台に向かう。
隅田川に架かる小台橋のたもとの居酒屋で
当夜は一杯やる予定なのだった。


【本日の店舗紹介】その1
「朝日屋」
 東京都荒川区西尾久2-4-15
 03-3893-1428

 
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2010年9月3日(金)

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