「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1090回
こいつはヘンだぞ「吉野鮨」

連日連夜、角打ちめぐりにいそしんでいた7月のこと。
その夜は月島の「枝村商店」を皮切りに
京橋の「枡久」に流れてきていた。
中央通りに面した以前の場所から
近所の現在地に移転してからもまた、
老若男女を問わず、仕事帰りの人々が参集して盛況だ。

3軒目の神田岩本町「伊勢権酒店」に向かう。
差し掛かったのは「吉野鮨本店」である。
自著「庶ミンシュラン」では
最高評価を下した庶民的鮨屋の代表格だ。
さすがに酒屋での立ち飲みに疲れていたのだろう、
あるいはしばらく江戸前鮨を
口にしていなかったことが作用したのだろう。
矢も盾もたまらずではないにせよ、
迷いのないまま身体は左へ90度回転、
右手は引き戸を引いていた。

2軒の酒屋でさんざっぱらビールを飲んだのに
ここでもまたシュポンと王冠を抜いてもらう。
まだ終わっちゃいないが
今年の夏はビールの旨い夏だった。
若者にとって夏は恋の季節でもこの歳になると
ビールの季節でmore than happyとなる次第。

まだ若い当代の前に陣取り、好物の蝦蛄(しゃこ)を所望。
カツ節(腹子)ナシが好みながら
みなそこそこに孕(はら)んでいるのばかりを仕方なく4尾。
身肉にしっとり感が残り、まずまずではあった。
つまみは蝦蛄のみで切り上げ、にぎりに移行する。

初っぱなはこの店では初めて食べる真鯛昆布〆。
これが昆布〆のくせに締まりがなくユルい。
ちょっとおかしいな、口直しに漬け生姜をつまむと、
今度は酢がトンガッて相当にキツい。
こんな生姜じゃなかったハズだがな。
そのくせ酢めしがヤケにおとなしく、酢はほとんど主張せず。
こいつは本格的にヘンだぞ、思わず首をひねった。

われに返ってお次は新子、これは1カンが3枚付け。
可愛いヤツをパクリとやれば、
たちどころに頬がゆるんで舌鼓がポン、
すかさずアンコールに及ぶが、やはり酢めしがもの足りない。
イマイチの鯖、酢の利きすぎた小肌、
やや水っぽい赤身、そこそこのヅケと継いだ。
ここまで来て、満足度はけして高くない。
当代が仕切るようになってからシゴトが変わったのか?

先代はいずこに? と周囲をうかがう。
やはり常連さんの卓で一緒に酒を酌み交わしていた。
べつに悪いことではないし、とやかく言うつもりもない。
しかるに江戸前シゴトの逸脱だけは看過できないものがある。

締めの玉子は変わらぬ旨さなれど、
締め前の穴子がイケナかった。
あのしょっぱさは塩を振ってあぶった上から
重ねて煮ツメをひいたのではないかと思われるほど。
ずいぶんと変わってしまった。

小言ついでだ、最後にもう1つ。
酢めしをやたらに手の甲にくっつけ、
桶の上で払うのは見苦しいことはなはだしい。
鮨も鮨屋も鮨職人も、常に美しくあらねばならぬ。

「吉野鮨本店」
 東京都中央区日本橋3-8-11
 03-3274-3001

 
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2010年9月8日(水)

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