第1096回
かつてこの町は池袋より栄えていた(その2)
三業地の香りを残す大塚の町で飲んでいる。
洋食「ABC北大塚店」で軽くやるつもりが
メンチカツもチキンカツもけっこうなサイズで
図らずも腹八分目を超えてしまった。
これから河岸を替えてもそんなには食べられない。
そこで行動を修正することにした。
山手線の内側に移動して
南口駅前ロータリーに面したおなじみの「江戸一」へ。
大塚に来るとどうしてもこの「江戸一」を看過できない。
かつおの刺身で白鷹樽冷酒と高清水上燗を1本ずつ。
にんにくがないのは残念ながら
生姜でやっても上質のかつおは美味だった。
本日はこれにて打ち止めとする。
後日、やはり宵の口に向かったのは空蝉橋そばの「木曽路」。
しゃぶしゃぶのチェーン店ではない、個人経営の居酒屋だ。
ここでは生ホッピーと豆腐入りの煮込みを。
当時は月刊誌連載コラムのために
煮込みの名店を探し求める日々だった。
期待した煮込みは可も不可もなく、
やや肩透かし気味のまま、暖簾を反対側からくぐり2軒目へ。
目指したのは徒歩10分程度の「千通食堂」。
最寄り駅は都電・荒川線の巣鴨新田、地番は西巣鴨だ。
目印は北大塚3丁目の交差点。
この店との遭遇は1年ほど前のことだろうか。
タバコ店併営の店構えに懐旧の心をくすぐられた。
 |
この佇まいがたまらない
photo by J.C.Okazawa
|
ラーメン屋・タバコ屋・タバコ自販機・お食事処、
すべて同一店である。
店内は外見同様にいたって庶民的。
老夫婦2人が仲良く二人三脚で営んでいる。
 |
ほかに客の姿はナシ
photo by J.C.Okazawa
|
品書きを見ると、中華屋・定食屋・洋食屋が混在する景色。
定食は650円のものが多く、
焼き魚・ハムエッグ・野菜炒め・串かつ、みなそうだ。
ラーメン(450円)・焼きそば・チャーハン(各600円)・
かつ丼・かつカレー・オムライス(各800円)といった按配。
この日はホッピーで幕を開けたので遅ればせながらのビール。
つまみには串かつをお願いした。
 |
豚肉と長ねぎのねぎ間であった
photo by J.C.Okazawa
|
こういう食堂でとんかつを注文することはまれでも
ビールと相性のよい串かつはちょくちょく頼む。
場末の居酒屋でもビル屋上のビヤガーデンでもまたしかり。
ビールをカラにして日本酒の燗を所望。
このとき店の婆ちゃん、
「うちは昔から剣菱ですよ」――誇りを持って言い放った。
うん、そうだよね、剣菱はいい酒だよね。
これがキッカケで老夫婦との会話がスタート。
店主は新潟・小千谷の出身で伴侶もその近くの人である。
屋号の「千通」はふるさとの地名だか、通りの名前だか、
ということだったが、こちらの記憶があやふや。
昭和33年の創業以来、ずっとこの地に暖簾を掲げてきたという。
今年で爺ちゃんは83歳、婆ちゃんは85歳になる姉さん女房だ。
今でも後片付けを終えると
2人揃って近所の銭湯に出掛けるそうだ。
店の自慢は開店当初から味を変えていないラーメンの由。
それじゃそいつをいただきましょうとなるのも当然だろう。
 |
雷文模様が昭和を偲ばせる
photo by J.C.Okazawa
|
ケレンのない醤油スープに太めの縮れ麺。
ホントだ、あの頃35円だった支那そばの味がした。
=つづく=
【本日の店舗紹介】その1
「江戸一」
東京都豊島区南大塚2-45-4
03-3945-3032
【本日の店舗紹介】その2
「木曽路」
東京都豊島区南大塚3-30-12
03-3987-6582
【本日の店舗紹介】その3
「千通食堂」
東京都豊島区西巣鴨1-5-10
03-3917-2283
|