第1100回
宝探しに成功の巻
3匹の野良猫にサヨナラして
暗くなった街をさまよい歩いている。
理由は知らねど、なぜか水戸にはうなぎ屋が多い。
いずれも老舗で値段もけっこうなものだが
どこかやぼったくて風格はない。
「太津美屋」、「北浜」、大店の料亭が灯りを点していた。
気になったのは「味の名門 乃ぐち」なるおでん屋。
夏場でなく秋口なら飛び込んでいたかもしれない。
大工町バス亭前で「喜久水」という食事処を見つけた。
ちなみに“喜”の字は七が3つの旧字。
暖簾には「お食事 喜久水」とあるだけなのに
年季というか、由緒というか、ただならぬ気配を感じた。
いわゆる第六感を刺激されたわけだ。
決断して足を踏み入れたときの驚きと歓びといったらない。
このときばかりは自分で自分の才能が怖くなった、
なあ〜んちゃって、臆面もなく自画自賛。
でも、そう言いたくなるほどの雰囲気を備えた洋食店だ。
客席に腰掛けていた女店主が
おもむろに立ち上がって「いらっしゃいませ」。
声には出さずに胸のうちで
「いらっしゃいました」と応える。
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夏場はお役御免のストーブが中央に
photo by J.C.Okazawa
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水戸にも「三丁目の夕日」があった。
壁にペタペタ貼られた品書きにキョロキョロしてしまう。
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夜も食べられるランチは(並)と(上)
photo by J.C.Okazawa
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何とかランチみたいな数種類の料理の盛合わせは
食い意地の張った欲張者にはありがたい。
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それ以上にメンチボールが気になった
photo by J.C.Okazawa
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珍しいメニューだが、東京の古い洋食店でも時折見かけ、
ハンバーグとミートボールの中間であることが多い。
念のために違いを訊ねると、
「メンチボールはデミグラスでハンバーグは醤油ベースです」
なあ〜んだ、と思いつつもボールのほうをお願いした。
むろんのことにビールも注文すると
大根のぬか漬けを出してくれた。
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漬かり加減がとてもよい
photo by J.C.Okazawa
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久しぶりに真っ当なぬか漬けに出会った気がする。
それにしてもこの居心地のよさは何だろう。
ほかに客のいない貸切り状態では
尻の座りが悪いのにここは違う。
この空間に身を置けるだけでも
水戸まで来たかいがあったというものだ。
仕事帰りの若い夫婦(?)が入ってきて
カツサンドを2人前注文。
夫婦で同じものを頼むからには
よほどのカツサンドなのだろう。
大根を奥歯で噛みながら、そう思った。
所要時間およそ10分でメンチボールが登場
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どこから見てもハンバーグ
photo by J.C.Okazawa
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今流行りの粗挽き牛肉が主張するタイプではなく、
昔ながらの実直な味。
デミグラスにしっかりとコク味があり、
サイドの甘酸っぱいポテトサラダがノスタルジック。
しばらくしてスープが運ばれる。
町の中華屋の炒飯に添えられる清湯というヤツで
何ともミスマッチの妙。
水戸の宝物を探し当てた満足感にしばし浸る。
同時にあの3匹の野良猫は今頃、
どうしているのだろうとボンヤリ振り返る。
今夜はこの地に泊まるのをやめにして
愛猫のもとに帰還するとしましょうか。
【本日の店舗紹介】
「喜久水」
茨城県水戸市大工町1
029-221-3243
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