「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1103
天ぷらそば始末記(その1)

8月末のクソ暑い時期に熱い天ぷらそばを食べ続けるという
拷問のような日々を送ったことは当コラムでもふれた。
苦行のかいあって先週の「週刊現代」の記事になったが
誌面でカバーしきれなかったそば店の詳細や
天ぷらそばの映像を2回に渡って紹介したい。

以前はそば屋の代表的メニューに君臨していた天ぷらそば。
鍋焼きうどんと並んでいかにも高級品というイメージがあった。
それが人気を落として
近年はあまり注文されなくなったと聞き及ぶ。
オシャレ志向なのか、食べやすいのか
天せいろ・天ざるに人気を奪われているきらいがある。
冷たいそばと天ぷらの組合せは
先に天ぷらで酒を飲み、あとでそばをたぐることが可能となる。
これを専門用語?で“お声掛かり”という。

もちろん、温かい天ぷらそばでも
“お声掛かり”ができないわけではない。
しかしそれを注文する客は多くはないはずだ。
飲んだあとのかけそばは旨いものだが
そば屋においての受注率はもりがかけを圧倒しよう。

江戸の昔、凍える晩の一杯のかけそばは
庶民の胃の腑に染み渡ったことだろう。
かけの人気にかげりが見えたのは
日本全国をラーメンが席巻し始めたときではないか。
冷やし中華はもりそばを駆逐できなかったが
中華そばはかけそばを凌駕したのである。

いけない、また前フリが長くなった。
1軒目は都営新宿線・住吉と東京メトロ東西線・東陽町の
ちょうど中間にある「さらしな遊山」。
初顔・再訪合わせて十数軒めぐったうちで
もっとも器量よしの天ぷらそばがこれだ。

どうです? この美しさ
photo by J.C.Okazawa

職人のセンスに裏打ちされた“日本の美”が
一鉢のどんぶりに凝縮されている。
茶の湯にも通ずる美学が伝わってくる。
カラリと揚がった結び三つ葉の演出も心ニクい。
海老は1尾ながら実に立派なホンモノの車海老。
質がよいから尻っぽまで食べられる。
これが1200円とCPはきわめて高い。

読者の方々はホッピーをご存知だろうか?
貧しい人々のためにビールの代用品として
造られたという曰くつきの飲料で
このホッピーには“三冷の掟”がある。
ジョッキとホッピーをキンキンに冷やし、
焼酎はシャーベット状に凍らせて提供するというものだ。

掟に倣うと「さらしな遊山」の天ぷらそばは“四熱の掟”。
どんぶり・つゆ・そば・天ぷら、そのすべてが熱々で供される。
そして更科そばであるがため、
都内で一番柔らかい天ぷらそばの1つだろう。
噛まずとも喉を通るから歯の弱いお年寄りでも大丈夫。
ただし舌触りは極細ラーメンをすする快感がある。
歯応え・喉越しよりも舌触りを楽しんでこそ、
真髄に触れることのできるそばだ。
天ぷらそばに秀でている店は例外なく、
ベースとなるかけそばが優れているもの。
店主は「柿の木坂更科」の出身である。

         =つづく=

【本日の店舗紹介】
「さらしな遊山」
 東京都江東区千石2-9-4
 03-3640-4340

 注:くれぐれも文京区千石とお間違えなきよう

 
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2010年9月27日(月)

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