「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1106
CP抜群のにぎり鮨

今はむかし、古代ローマ時代には
「すべての道はローマに通ず」といわれたものだが
徳川の江戸の世はすべての道が日本橋に通じていた。
東京を代表する名橋・日本橋も悲しいかな、
首都高の高架にまたがれて、もはや見る影もない。
ときの施政者が犯した愚行の痕跡が
生々しく放置されているのが現状、
すでに時効だろうが責任者は罰せられてしかるべき。

橋に罪はないけれど、東京の中心の日本橋、
橋の北詰と南詰では地番の名称が異なる。
北側には本石町と室町が左右に並んでいるのに
南側は味も素っ気もない、その名も日本橋が
1丁目から3丁目までベタ〜ッと続いているだけ。
郵便配達人に便宜を図って町名変更をしたためで
これまた施政者の愚行といえよう。

したがって常識的な東京人が地名として
“日本橋”を用いた場合は橋の南側一帯を指す。
北はどうかというと、本石町・室町とはあまり呼ばずに
地下鉄の駅名に沿って“三越前”という。

三越前に「鮨 山沖」が現れたのは数年前。
あまりメディアに登場しないうえ、
これといった名声や評判も伝わってこなかった。
ただ、近所の銀行に勤めている友人に
値段抑え目にしてシゴトキッチリにつき、
「ぜひ1度試してごらん」とささやかれたことは事実だ。

中学時代からの旧友と2人で
つけ台に落ち着いたのは9月中旬の夜。
8人も座ればいっぱいのごく小体な店である。
先客は奥にオバさま方が3名。
再訪者とみえて和やかに談笑しながら酒食にいそしんでいる。
目の前のタネ書きを紹介しよう。
 中とろ づけ こはだ 鰯 さば ひらめ しゃこ 海老
 生いか 下足 たこ 雲丹 いくら 赤貝 たいら貝
 北寄貝 穴子 玉

実際は縦書きで右から左に順番に書かれていた。
仮名・漢字はボードのママである。
鰯だけ漢字で、さば・こはだが平仮名というのもヘンだし、
煮いかがないのに生いかとわざわざ記すのもおかしい。
下足はいかゲソのことながら、この当て字も何だかなァ。
そして雲丹の表記は明らかな間違い。
雲丹は練り製品の瓶詰など加工品のウニのこと。
生ウニには海胆、あるいは海栗を当てるのが正しい。

イチャモンはこのくらいにして当夜のいただきもの。
つまみは青森産だったかな? 平目とそのエンガワ。
続いて岡山産の子持ち蝦蛄に
産地訊きもらしの墨いかゲソである。
平目はさばいてそれほど時間が経過しておらず、
死後硬直が残ってかなりシコシコ。
これはこれで嫌いでないから美味しくいただけた。
蝦蛄は江戸前には及ばぬものの水準をクリアしている。
ゲソは煮ツメでやり、バカにはできない滋味を感じた。

にぎりに移行。
 墨いか 小肌 酢いわし 〆さば ゆで車海老 
 あぶり平貝 赤貝 赤身づけ 穴子 玉子

赤字が花丸ジルシ。
いわしを酢で〆るのは見識あるシゴトだし、
総じて光りモノが秀逸だった。
逆にイケナかったのは才巻き海老に煮ツメをひいたこと。
これは救いようがないくらいに合わない。
おそらく蝦蛄からの連想だろうが気の強い蝦蛄と違い、
煮ツメは車海老、殊に繊細な才巻きの個性を殺してしまう。
“策士、策に溺れる”とは実にこのことなのである。
しかしながら、飲みものがビールだけだったにせよ、
会計が2人で1万6千円弱というのは
すばらしいCPの高さ、心から誉め讃えたい。


【本日の店舗紹介】
「鮨 山沖」
 東京都中央区日本橋室町1-12-14
 03-5201-8009

 
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2010年9月30日(木)

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