「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1108回
しくじりのタイトルロール(その1)

唐突ながら“タイトルロール”は“題名役”のこと。
タイトルが題名、ロールが役柄だ。
オペラの世界でひんぱんに使われる用語で
たとえば女性歌手なら
「ノルマ」・「アイーダ」・「カルメン」・「トスカ」・
「蝶々夫人」・「トゥーランドット」・「サロメ」、
男性歌手だと
「フィデリオ」・「ドン・ジョバンニ」・「タンホイザー」・
「ナブッコ」・「リゴレット」など、
題名通りの役を歌うのがタイトルロールである。

この言葉、何もオペラに限ったものではなく、
映画・演劇・芝居にも当てはまる。
「ダーティ・ハリー」のC・イーストウッド、
「フォレスト・ガンプ」のトム・ハンクス、
「椿三十郎」の三船敏郎と織田裕二がそうだ。
芝居や映画で人気の「忠臣蔵」は
“忠臣・内蔵助”のことだから
この場合の大石内蔵助役も
やはりタイトルロールということになる。

J.C.は日ごろからタイトルロールを
レストランのメニューにも転用している。
たとえば浅草「弁天山美家古寿司」の
弁天山コース、並びに美家古コースを
タイトルロールとして位置づけているわけだ。
このケースは主役が2人いるので
さしずめ「ロミオとジュリエット」のようなものである。

架空の店だが「リストランテ・プッチーニ」の
プッチーニ風スパゲッティ、
「ビストロ・ベルモンド」の
エスカルゴ・アラ・ベルモンドは
もちろんそれに相当する。

西浅草はビューホテルのそばに
「来集軒」という、それは古い、古いラーメン店がある。
ずっと昔は合羽橋通り(合羽橋道具街に非ず)に面して
どぜうの「飯田屋」の並びだったが
20年ほど前に近所の現在地に移転した。

この店のラーメンはまさしく古き良き東京ラーメン。
それこそ中華そば、
いえ、いえ、支那そばと呼ぶにふさわしい“逸品だった”。
“だった”と過去形にしたからには
今は“逸品”ではなくなったということ。
先代が亡くなられて味が変わってしまった。

かつて「来集軒」の2軒ほど隣りにあって
数年前に閉店した「鮨はちまん」の職人と
ある夜、交わした会話。
「最近は隣りのラーメン、味がオチたと思いませんか?」
「うん、そうだね、以前のほうがよかったな」
「ですよねェ?」
「だよなァ」

連日連夜の天ぷらそばから開放された直後、
久々にやって来た「来集軒」。
開店直後の12時10分だというのに
早くもかなりの席が埋まっている。
独りなので相席用の大テーブルに腰を下ろし、
さっそく頼んだのはビールの大瓶と
“往年の名物・シューマイ”である。
実は“往年”と断ったのにはワケがある。

            =つづく=

 
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2010年10月4日(月)

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