「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1109回
しくじりのタイトルロール(その2)

浅草を代表する老舗中華そば店「来集軒」を来襲。
ビールを手酌でやりながら
“往年の名物・シューマイ”の蒸し上がりを待っている。
わざわざ“往年”と断りを入れたのは
このたび、もはや名物とは言い難いことを確認したためだ。

ラーメン同様に、いや、それ以上に味を落としたのが
何を隠そう、このシューマイであった。
だからこその“往年”付きなのだ。
もともとつなぎの多いタイプだったが
以前は輝いていた玉ねぎの甘みが失われ、
粉っぽさの残る駄品と化してしまった。
「シューマイよ、お前もか!」――
シーザーならずとも嘆きたくなったのである。

天を仰ぐ代わりに目の前の壁を見上げた。
著名な来訪者が残したサイン入り色紙が
ところ狭しとペタペタ。
浅草という土地柄から噺家が多数やって来ている。
林家正蔵襲名後のこぶ平や
木久蔵時代の木久チャンが並んでいる。
ほかにも作家・森村誠一の一筆は“味の証明”ときたもんだ。

‘09年10月1日には鳴門部屋の2力士が連れ合っており、
若の里は「ありがとう 来集軒さん江」、
稀勢の里は「沢山ごっちゃんでした」としたためている。
実直な兄弟子と能天気な弟弟子の言い種が好対照だ。
殊に大相撲ファンの期待を裏切り続けている、
稀勢の里の「ごっちゃん」はふざけている。
下位力士にコロコロ負けやがって
連中から「ごっちゃん! ごっちゃん!」を
連発されているのを自覚しているんだろうか、ったく。

おっと、そんなことよりタイトルロールだった。
昨日のコラムで飲食店のメニューにも
この発想を導入していることを明らかにした。
実は「来集軒」にはタイトルロールがあり、その名は来集メン。
シューマイの急落にガックリしつつも
久しぶりに食べてみようという気になった。

シューマイの皿を下げにきたオバちゃんに
「来集メンお願いします」と伝えると、
彼女応えて「ソース焼きですね?」と再確認。
そう、これはソース焼きそばのことなのである。
店が念を押すのはただ漠然とタイトルロールを注文した客が
ソース焼きそばを突きつけられて
驚いたり、嘆いたり、はては絶望する“事件”が
多発したからにほかならない。

注文後、ふと壁の品書きを見ると
すでに“来集メン”の名前は消えて
変哲のない“ソース焼きそば”に書き換えられていた。
さもありなん。
およそ12年ぶりで食べる来集メン、一箸すすって愕然とした。
何だこの甘ったるさは! ソースのぶっかけ過ぎだよ!
先代の手になるものとは似ても似つかぬ別物である。
今度この店に来るのはいつのことになるのやら・・・。

憮然として店をあとにし、千束方面の散歩に歩き出す。
ものの5分と行かぬうちにJ.C.を衝撃が襲った。
何と好きだった「元祖恵比寿ラーメン」が閉店して
台湾小皿料理店に取って代わられているではないか!
話せば長くなるので、あえて多くを語らないけれど、
恵比寿→六本木→千束と、流れ流れた佳店の消滅。
再び愕然として砂を噛むような気持ちになった。
この日は天中殺以外の何であったろう。


【本日の店舗紹介】
「来集軒」
 東京都台東区西浅草2-26-3
 03-3844-7409

 
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2010年10月5日(火)

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