「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1110回
赤と黒のブルース

上野と新橋の間を結ぶ中央通りは
押しも押されもせぬオール東京のメインストリート。
青山通りや六本木通り、はたまた表参道とは歴史の重みが違う。
さして長くもない中央通りは銀座1丁目から8丁目までに限り、
銀座通りの愛称を併せ持つ。

ある日の夕刻、長くはなくとも道幅の広いこの通りを
万世橋から神田方面に向かって歩いていた。
今にも雨粒が落ちてきそうな空模様。
オシッコを我慢している爺ちゃんのような夕空である。
この様子ではいつ漏れ出すか知れたものではない。

神田駅前のガード下から1台の喧しい街宣車が疾走して来た。
スピーカー全開で鶴田浩二が歌う軍歌が街にこだましている。
右翼団体の常套手段で音量デカすぎだが
鶴田浩二の歌と声は好きだ。
彼の持ち歌に「赤と黒のブルース」という、
スタンダールの小説を連想させる一曲がある。
 ♪ カルタと酒にただれた胸に
   なんで住めよか なんで住めよか 
   ああ あのひとが ♪ (宮川哲夫作詞)

この一節のおかげで“赤と黒”はカルタ、
いわゆるトランプであることが判る。

街宣車が走り去ったあとも
好きな「赤と黒のブルース」を口ずさみながら
神田駅北口界隈をうろついていた。
今宵、身を置くべき場所の物色である。
都内各地に点在する「三州屋」の前を通り掛かったとき、
ガラス戸が引かれて店内から酔客が出て来た。
開いた戸の隙間から見るともなしに中をのぞくと
入口脇にビール用の冷蔵ケースがあり、
サッポロ黒ラベルと赤星(ラガー)が並んでいた。
珍しい赤星は2本ほどしか冷やされていないようだ。
即刻決断し、次の瞬間には酔客と入れ違いに入店、
折よく空いたカウンターの一席に腰を下ろす。

売り切れないうちに赤星を頼み、
つまみには蝦蛄(しゃこ)の刺身を。
街の飲食店でサッポロ赤星を見掛けたときには
ほとんどと言ってよいほど注文している。
ただ、当日は少なからず舌がこの銘柄に重みを感じた。
一慮のあと、むつのあら煮をお願いしながら
思うところあって2本目は黒ラベルにスイッチする。

1杯目のグラスをグイッとやってしばし黙考。
う〜む、この一番、間違いなく黒ラベルに軍配であった。
ビールにコクよりもキレを求める飲み手にはこちらだろう。
これからは赤星を飲む機会がめっきり減るだろうな、
ボンヤリそう思う頭の中を
 ♪ 赤と黒とのドレスの渦に
   ナイトクラブの夜はふける ♪

今度は2番の歌詞が回り始めた。

ここでJ.C.、ハッと思い当たった。
今夜のビールも「赤と黒のブルース」じゃないか。
妙な偶然に敬意を表し、いっそ下町に移動して
赤ホッピーと黒ホッピーを飲みくらべようなんて
妄想まで芽生え出す始末だ。
かくしてナイトクラブならぬ、
大衆酒場の夜は更けてゆくのでした。


【本日の店舗紹介】
「三州屋 神田本店」
 東京都千代田区内神田3-21-5
 03-3256-3507

注:すぐ裏に「神田駅前店」があるほか南口にも
  同名店があるがどちらも別経営

 
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2010年10月6日(水)

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